第5話 タイでの幸せ
大学で友達ができなかった分、勉強には専念でき、就職活動では、トップクラスで、有名な製薬会社に入り、薬の研究をすることになったの。
そんな時、驚く連絡が耳に入ってきた。彩が入社したその晩に、車に轢かれたんだって。どうして、そんなことになっちゃたんだろう。今日が最初の出勤日で楽しみって、DMを送ってきたのに。彩の葬儀に出て、これまでありがとうって遺影に向かって伝えた。
これで、理恵って、親しみを持って呼んでくれる人はいなくなっちゃった。私は本当に1人になったんだ。
その後、仕事は順調だったけど、親からも、上司からも、結婚しないのかと何度も言われた。両親はわかるけど、上司はセクハラよね。相変わらず、男性から抱かれる気にはなれなくて、結局、中学の時、遊園地に行った時から、男性と手を握ったことすらない。
最近、ハマっていることがある。メタバースのサイト。そこでは、男性のアバターになり、声も男性の声に変換されて、遊び回れる。男性になって、女性たちと遊ぶ日々が続いた。リアルの世界では会えないけど、ここなら、ずっと、男性として人気者でいられる。
さすが、テクノロジーはすごいわね。私みたいな人でも救ってくれるんだから。
最近、思うんだけど、体は単なる箱みたいなもので、確かにホルモンとか、考えに影響するものもあるけど、それほど考えなくてもいいんじゃないかって。体が、女性か男性かは関係なく、自分がここにいるということが重要なんだって。
しばらく時間が過ぎて、27歳になった時、タイの製薬会社から、破格の報酬で転職してくれないかと連絡が入った。大学の時にタイ語は勉強して、少しは話せるし、研究できる幅が広がるんだったらと応諾することにした。
タイに向かった私は、次々と新薬を開発し、年俸8,000万円まで出しても引き止めたい人材として丁重に扱われた。プール付きの一戸建てに住み、毎日、会社の車で送り迎えしてもらえる贅沢な日々を過ごしていた。
もう一つ、気に入ったことがあったの。タイでは、女性同士のカップルは普通であり、女性同士の結婚も法的に認められていたこと。日々暮らす中で、本当に透き通った心の持ち主の女性と出会い、一緒に暮らすようになった。その後、相手も同意してくれたので、結婚をすることにしたの。
そう、こういうのを望んでいたんだわ。このために、私は頑張ってきたのよ。日本のように、タイには、私を貶める人はいない。むしろ、みんな尊敬してくれるし、パートナーは私のこと愛してくれている。
両親は、困惑していたけど、私の人生だもの。私が幸せになるようにしたい。でも、孫ができないことを残念がっていたから、1回だけ、人工授精をすることにした。
誰の精子かは教えてもらっていないけど、日本人男性の精子で、その男性は、頭脳、体力とも素晴らしいって。男性と寝なくても、スポイトで子供ができるなんて最高じゃない。
子供は本当に可愛かった。自分のお腹を痛めた子とかいうけど、この子のためならなんでもしたいって気持ちになる。パートナーも可愛がってくれている。今時、男性と結婚しなくても子供はできるし、家庭も持てる。本当にいい世の中になったわね。
年に1回は日本に帰って、親に孫を抱かせてあげた。これ以上の人生ってある? 男性が私の周りにいなくても、いえ、いないから本当に幸せ。これからも、人生を謳歌するわ。
その後も、乳がんと診断されて片方のバストを切除したけど、脂肪吸引とかでバストを元のサイズに戻して、特に前の生活と変わらない。お金には困っていないし、医療技術の進歩も素晴らしい。本当に良い時代に生きることができて良かった。
ところで、最近、異性に変わって人生をやり直している人って、私だけじゃないことに気づいた。結構、周りにいるらしい。そういえば、もう亡くなった彩も、それに近いこと言ってた記憶があるけど、どうだったんだろう。
これは、パラレルワールドで体が入れ違っちゃうことだって噂を聞いた。そうだとすると、理恵の心は昔のいじめられていた私に入れ替わったの? そうだと、迷惑かけているかもね。でも、パラレルワールドに行けないんだから、確かめようもない。
そんなことはどうでもいいわ。今の生活が幸せっていうことが一番重要なんだから。私は、自宅の庭のプールサイドで、パートナーと笑顔いっぱいで笑ってる娘を、陽の光がいっぱいなベランダから幸せいっぱいの顔で眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます