第19話 嫌な予感がしますな。
賑やかな文化祭を制服姿の三人の警備隊員はパトロールをする。
まあ、パトロールと言っても彼らが必要になる場面は滅多にないだろう。
学生間のいざこざは基本先生や運営委員が間に入る。喧嘩になっても数でなんとかなるものだ。ただしそれは異能がなければの話だが。
「何かいま不吉なナレーションが入った気がするんだが?」
「白摩、流石にそれは感じ取っても言わないのがお約束だ。」
「何二人は当然としてナレーターがいる前提で話してるのよ。」
三人は普段と同じような調子で会話をしており、学校だからといって変に浮かれていたりはしないようだ。
適当な話をしながら、三人が歩いているとちょっと騒ぎ声が聞こえてきた。
どうやら、屋台の方でトラブルが起こっているらしい。
「金が使えねえってどういうことだ!」
「だからそれはそれはお金じゃねえだろ! いい加減にしやがれ!」
「どっからどう見ても千円札だろ! 頭狂ってんのか? ああん?!!」
屋台にはヒートアップした男子生徒が二人。屋台の店員とその客だろう。店員はちょっと体格がいい好青年で、客の方はヤンキーっぽい。その他の人達は二人から遠ざかって野次馬と化している。
男子生徒は今にも暴力沙汰にも発展しそうな状態であり、早急に解決しなければいけない問題であることは確かだろう。
「はいはい~。そこストップね。」
風丸は真っ先にその場に飛び込み、その竹刀を二人の間に突き刺した。
「暴力沙汰は手続きが面倒だから止めとこうぜ。喧嘩両成敗だから相手に擦り付けることもできねえし。」
風丸の介入で男子生徒は少し冷静になった。
「風丸あざす。すいません。制服着てるけどウォルフ警備隊の者です。」
白摩と西夢は少し遅れてそこに到着し、この場にいる人達に隊員証を見せて身分を証明する。
「ウォルフ警備隊赤崎小隊赤月班の赤月白摩です。今の状況を教えて貰っても構いませんか?」
白摩の問いかけに周りの人達や店員の男子生徒が今の状況を話した。話を整理するとどうやら、普通に買い物をしようとしたヤンキーっぽい男子生徒が金の代わりにただの紙切れ代用しようとしていたとのこと。
しかし、買い物をしようとしていたヤンキーっぽい男子生徒自体は普通の金を使っていると騒いでる。そしてそれは今もなおだ。
「薬とかはやってませんか?」
白摩が真っ先に疑ったのはヤンキーっぽい男子生徒が薬物に手を出している可能性だ。白摩自身はあまり薬に詳しくないのだが、そういう系のなかに幻覚作用などを引き起こすものがあることぐらいは知っている。
「やる訳ねえだろ。そんなことならゲーセンにでも言ってるぜ。」
本人は否定しているが、勿論口で言うだけでは説得力の欠片もない。少なくとも後日尿検査をする必要があるなと白摩は思った。
結局騒ぎは大事にならなかったため、ヤンキーっぽい生徒が先生に連れていかれるという結果で幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
「赤月君ちょっといいかい?」
時刻は五時頃、文化祭一日目も終わり、生徒たちは収入を勘定したり、明日に備えて準備をしている中、赤崎が白摩に声を掛けた。
「はい大丈夫です。赤崎小隊長。」
「小隊長ってつけなくていいのに。」
「規則ですので。」
「ひなちゃんみたいなこと言うな~。」
気の抜けるような会話であるが、赤崎の顔には少し深刻そうな雰囲気が見えた。
「何かありましたか?」
「実はね。」
赤崎は少しため息を付いてから話し始めた。
「君達、お昼ごろに屋台での騒ぎを収めただろ? 実はその後もそれと同じようなケースが起こっていてね。僕と鵜張が近くにいたから大きな騒ぎにならなかったんだが、その問題を起こした生徒たち、みないつも同じグループで行動してたらしいんだよ。」
「じゃあ、その間で薬物とかが流行ってた可能性はありますか?」
白摩は薬物の使用を疑ているので赤崎にそう聞いた。
「僕もね、最初はそう思ってたんだけど、普通に考えて同じ薬物を使ったとして、全く同じような症状どころか、全く同じ幻覚を見ると思うかい? それもお金というピンポイントで。」
「確かに。」
「あと、薬物中毒者にあるような症状は一切見られなかったし、何よりヘーテスがそれを否定した。」
どうやら、ヘーテスの目は特殊らしく、そう言ったものを見抜く力があるようだ。
「つまり、異能覚醒者ですか?」
「その線が大きいだろうね。しかも、外部の人間ではなく、生徒の可能性が高い。第一印象だけで決めつけるのは悪いけど、今回騒ぎを起こした生徒さん達はお世辞にも素行の良い生徒とは言えないだろうからね。どこかで恨みを買っていても可笑しくはない。」
「異能としては幻覚を見せる辺りですかね。」
白摩がそう聞くと赤崎は肯定する。
「そこら辺かもね。特定の人間の視覚に影響しているのか、それとも光に干渉して景色そのものを変えるのか。」
「どちらかというと前者ではないでしょうか。騒ぎを起こした人しか幻覚を見ていなかったので。」
「そうだね。でも、事態はいつも最悪を想定しておいた方が良いよ。そうだね、今回は町全体を幻想の世界に引きずり込めるぐらいは考えておこうかな。」
白摩は流石に大きく見積もりすぎではと思ったが、赤崎の声色はマジであった。
「明日の警備にはひなちゃんにも来てもらうことにするよ。」
すると白摩は驚いた顔をした。
「マジですか? 飛成さんは流石に大変じゃないですか? 慣れましたけど、あの容姿は目を引きますよ。あと、有名人ですし、犯人を刺激しませんか?」
「僕の予想だけど、犯人は明日ことを起こすつもりだと思う。だからこそ動員できる最高の戦力で戦おうかなって。僕もいつもの装備を持っていくし、赤月班もそのつもりでお願い。」
「わかりました。何も起きないことを祈ってます。」
「そうだね。それが一番だ。僕の働きかけが空回ることを願っているよ。」
二人は何も起こらない未来を願いつつ、明日起こることに対して思考を巡らせる。二人の直感は明日、事件が起こることを警告していた。
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