桜の木の下で君と

@suzunatukiyoka

第1話 プロローグ

僕の名前は綾瀬湊。十年前に亡くなった。心臓病の恋人に自分の心臓を移植したからだ。

彼女の名前は白波瀬遥奈。僕の初恋の人であり、愛した人の名前。

僕は毎年桜が咲く季節に天国から地上に行く。遥奈に会うためだ。

いい加減に成仏しろと思う人もいるかもしれないが、これは僕の習慣なのだ。

僕は通っていた高校の通学路にある桜の木の下に向かう。そこには若い男女がいた。僕の友人であった稜と僕の恋人であった遥奈がいる。彼女を見るとお腹が大きくなっている。彼女の中に新しい命が宿っているのだ。

おめでとう、遥奈。君には稜と守ってくれる人たちがたくさんいるから大丈夫。安心して子供のために自分の命を使ってくれ。僕は君の中に生きているから。稜、お前は男として遥奈を— いや、二人を守ってやれよ。

もしお前が遥奈や家庭を顧みずに傷つけたとしたら、僕は容赦なく天国からお前を呪ってやるからな。

遥奈。君が最期に言ってくれた願いを覚えている?

「桜の木の下で、もう一度君に会いたい」

あの言葉を聞いて僕がどれだけ嬉しかったか知ってる?僕も同じ気持ちだよ。

今日は僕が死んでから十年目の節目の年だ。いや、死人には節目なんて関係無い。でも僕が生きた世界には何回忌とかの言葉がある。あの時は馬鹿馬鹿しいと思っていたけれど、今はとても大切な日になっている。でも今年からは違う。二人の間に守るべき存在ができたからだ。君達はこれから生まれてくる新しい命を迎える準備をしているところだろう。

僕もそろそろ前を向かなくてはいけない。いろいろ君に伝えたいことはあったのに、言葉にならない。でもこれだけは伝えさせて欲しい。

僕は君が好きだ。愛している。稜と幸せな家庭を築いてくれ。

伝えるべきことは伝えたからもう僕は行くよ。さようなら。

短い間だったけど君といられて僕は幸せでした。

もし生まれ変わって君ともう一度会えるなら、桜の木の下で君にまた会いたい。

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