第113話 冬の辺境伯領の冒険者たちは!

side ある辺境伯???


 毎年恒例の魔獣の討伐の時期に入った。今期の討伐数はすでに例年より多い。にも関わらず、冒険者ギルドからの騎士団への応援要請がまだ1件もない。


 例年であれば、すでに何件か応援要請をこなしているはずだ。だが今年は今のところすべて冒険者ギルド内で対応できているようだ。


 今年の冒険者ギルドの活動は順調だ。順調過ぎると言ってもいい。賞金首を含めた盗賊の討伐報告数、通常の魔獣の巣の殲滅、小規模の魔獣の氾濫の対応、それらに加えて良質なポーションの供給。


 一体どうしたのか探りを入れてもやんわりとかわされている。


 報告では今年もSランク冒険者ゼット率いるパーティも領都入りしている。彼らには感謝しかないな。彼らが加わることで冒険者たちはもちろん、街全体の士気が間違いなく高揚する。


 なにしろ冒険者は国に縛られない存在だ。聞けば他所の国で活動することもあるそうだし、毎年必ずこの時期に間に合うように訪れてくれるとは本当にありがたい。


  彼らがこの領を気に入ってくれているのは本当だろうが、貴重な大戦略であるSランク冒険者の行動範囲は常に冒険者ギルドも注視しているはすだ。


 その上で各国の戦力バランス、危機管理など、この広大な辺境の治安維持の重要性を思っての行動だろうと考えている。


 Sランク冒険者の実績と貢献は素晴らしいし、ありがたい。しかしそれだけではやはり説明しきれないのでは?いきなり冒険者たちのレベルが上がったというわけでもないだろう。


 この違和感?覚えがある。少し前の人攫いの一件と似ている。


 なんなのだろう。


 あの事件について当然騎士団も調査を行った。しかし分かったことは僅かだった。


 まず良かったのは、人攫いたちの動きがごく小さい内に対処できたこと。被害者たちがどうやら全員助かったこと。一味の記録や資金までしっかり押さえることができたこと。拠点も制圧でき背後関係の調査にすばやく移行できたこと。


 それに実行犯である人攫いたちにも死者はなかった。心底怖い目にあったようでおよそらしくないほど取り調べが楽らしい。どんな目にあったのか、すごく知りたい。


 しかし一部を除いて人攫いたちを捕らえた者の姿を見た者がいない。根城とその周辺にいた者たちは気づく間もなく捕らわれていたそうだ。


 酒場でいきなり出現した捕獲者によってどこかに監禁されていたらしいが、どこかの森のど真ん中に放置されたとか何とか。


 子供の姿をしていたそうだが、拘束され、無力化され、無抵抗の状態で捕食者たちに攻撃され、まあ結界はあったから無事だったわけだが、精神が崩壊するギリギリまで追い込まれたみたいだな。ウーン、本当にどんな目に会ったのか?


  そして肝心の今回の功労者である捕獲者本人についてだが、皆口が重い。どうやら子供らしいのだが?一部の証言によると、被害者の何名かと顔見知りだったとか?


 しかしその顔見知りという者たちは、あの結界の中にはいなかった。酒場の店主や客たちも知らない子供だという。


 まぁなんとなく予想はついた。


 きっとあの子供なのだろう。だいぶ前に我が領都に侵入した者と、討伐に貢献している者はおそらく同一人物。


 あれから侵入の形跡がないと思っていたら、我が街の正式な住民になっていたとは。住民になるんだったら、なぜ危険をおかしてまで不法侵入をしたのだろう?


 疑問は尽きない。助けられた者たちも不自然に思わなかったのだろうか?なぜ子供が助けになど…と。


 まぁかなりの魔法の使い手のようだから、隠密や逮捕術以外にも精神に影響する魔法を使うことも出来そうだ。


 そうなると危険度が上がる訳だが、なんだろう心配する必要をあまり感じない。


 救出された被害者たちには職業訓練の機会を与えたり、希望に応じて住み込みの見習い仕事を紹介したりした。この費用に討伐報酬を充てたわけだが、これで子供は満足してくれただろうか?


 人攫いの組織は、今王都とも連携して追い込み中だ。本来なら辺境は今魔獣対策で手一杯のはずだった。


 しかし思いの外順調に討伐がすすめられているので、犯罪の捜査をする余裕まである。おまけに辺境では近年稀に見る豊作ならぬ豊猟で、魔獣の討伐の効果で肉類と素材が潤沢なのだ。


 餓死者が出るほどではないが、厳しい気候の北部辺境地域は冬支度に苦労している訳だが今年は肉を売って穀物を買い入れる余裕すらできるのではと見込んでいる。


 これも冒険者ギルドのおかげだろう。それにしても少し前からいきなり滞っていたクエストがすごい勢いで消化されはじめた。


 週単位でみるみる減少していく中高難度のクエスト。大抵が盗賊や魔獣などをターゲットにしたものだ。


 こういったものは、いくつかのパーティが協力しないと対応できない案件のはずだがまるですべてを見通しているかのように解決していく。


 こんな一晩で解決するような事件ばかりのはずがないのに。


 しかしこの子供は何のためにこの街に住みついたのだろう。人助けのためなのか?日夜討伐に励み、施しを行う。


 まさか!神が遣わした人類救済の使徒さまだろうか?


side ???


 …イヤイヤ、絶対チガウし。たまたまだし。


 この後、そう遠くないいつか、冒険者ギルドのギルドマスターから相談と報告を辺境伯は受けることになります。


 冗談半分に神の使い?などと考えていましたが、辺境伯はとてもお忙しい方ですから突き詰めて考えるまでには至っていなかったので『子供』のことをすっかり忘れていたとしても不思議ではありません。本人が目の前にいないとその異質さは分からないこともあるかもしれませんし。という訳で後日リーダーのことを改めて目にして納得と驚きと諦めを認識することになるようです。

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