第100話 人魚族

side 主人公


 夕食は海藻と貝類、お魚の健康的なメニューだった。わたしはこちらに来てしばらくは、海藻など食べられなかったからとても嬉しい。


 人魚さんが200年で飽きたと言っていたが、まぁどのお国の料理でもずっと同じ物だと飽きるとは思う。人間は200年は生きないので、人魚さんの言葉を本当に理解できているとはいえないだろうが。


 翌朝も法螺貝で食堂に行くと、果物みたいな物とパンみたいな物が並んでいた。普通の木々をここに来てから見ていなかったので不思議に思いたずねると、この果物のような物は海藻の一種らしい。


 食べてみると味が果物にそっくりだった。海藻にも様々な種類があると感心しながら、パンみたいなものも食べてみる。


 これもナンにちょっと似た、あまり膨らまないタイプのパンに味がよく似ている。こちらは海の中のダンジョンからとれる食べ物らしい。木の実のような見た目で、焼くと膨らむのだそうだ。


 海の中のダンジョンからは貴金属、宝石、真珠といった物から、皮革などの素材、肉や果物などの食べ物が幅広く採取できるという。


 まさにもうひとつの海のめぐみである。もちろんスタンピードなどの魔物の氾濫という危険も地上同様にあるという。


 朝食が終わると族長のもとに案内すると言われておりとても楽しみだ。じつは昨夜、族長のところに行く場合、最低限の人数でお願いしたいと言われて皆で話し合ったのだが、結局皆種族代表みたいな方たちばかりなのでやっぱり全員でとなった。


 話し合いの中で人魚さんを助けたのがわたしだと知り妹さんはひどく驚いていた。


 そうなのだ、いくら基本当事者のみと言っても皆当事者か関係者ばかり。わたしは助けた本人であり、番いとその後見の赤の老や師父、伯父にあたる大伯は番い側の身内。


 竜さんたちはわたしはつい竜と一括りにしがちだが、竜の各部族に優劣はつけられない。当然それぞれの竜族の長老にあたる各老たちが来ているのに留守番はさせられない。


 長老にあたる老たちに介添えがいるのはしごく当然で、それを残して1人で来いとかももちろん言えない。


 またわたしの連れにしても、基本人魚さんと同じ助けた者たちであり、これから祖国に送り届ける途中であり保護している以上わたしには責任がある。


 いくら人魚さんのご実家でも、知らない場所に放置して外出するなど当然ない。よって皆揃って族長さんのところに行くことに落ち着いた。


 妹さんから許可証として、綺麗な貝に紐を通したものを各自身につけてついていく。


 妹さんについて地下室に降りると、そこには輝く魔法陣があった。魔法陣のまえには結界のようなものがあり、許可がなければ入れないようになっている。


 渡された貝が許可証なのか問題なく皆魔法陣の中に立つ。どんな魔法陣なのかよく分からないというのに、誰ひとり微塵も不安な様子をみせないのだから大したものである。


 つぎの瞬間には海の中にいた。


 咄嗟に魔法を展開して呼吸や活動に問題ないようにしたが、まさかずっと水中なのだろうか?


 ふふっと妹さんが笑う。案内する基本の条件が海の中で活動することに問題がないだけの魔力の持ち主であることだそうだ。


 やはり人魚だ。陸の上の街など違和感があった。


 その光景は圧巻だ。島の下に広がる広大な空間。地上部よりもさらに絢爛たる建造物の数々。何の灯りかは分からないが、昼間のように明るい海の中。


 わたしは先程、咄嗟に皮膜のような魔力の膜で同行者を囲んだ。(竜さんたちは除く)呼吸に問題がないように、魔力が循環している。


 身体が冷え過ぎることもなく、普通に活動できるはずだ。視界も聴覚も良好だ。鼻は効かないがこの程度なら大丈夫。


 地上部も宝石や珊瑚が使われた街並みは美しく人間が目にしたら欲に目が眩む者が出そうだけれど、海中王国はそれ以上だ。これほどの富を見せられたら、奪おうとする者も少なからずいるだろう。


 回廊のように敷かれた道が、巨大な貝に繋がっているようだ。妹さんはあの貝に向かっている。

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