銃声とうたごえ

道草

第1話

 銃声が聞こえる。

 銃弾の雨あられの中、白い女性が一人立っている。

 彼女は銃声のメロディーに合わせて、突如歌い始めた。清らな水のような、透明な声が、戦場に響き渡った。

 それは美しいアイロニーだった。

 いつの間にか銃声は止み、彼女の歌声だけが残った。人々は動きをはたと止め、視線がただ一人白い彼女に集まった。

 人々は何を思ったのだろうか。誰一人として再び動き出す者はいなかった。

 白い女性は歌い続けた。それは徐々に人々を潤していくようであった。彼女は悲しいような微笑みを浮かべていた。泣いているようでもあった。

 不意に、何かの弾ける音がした。

 すると白い女性は濁ったものを噴き出し、その場に倒れた。白い彼女は、みるみる黒く染まっていった。

 また一つ、弾けた。二つ、三つと、それは徐々に数を増していき、やがて数え切れないほどの銃声が辺りに降り注いだ。

 微笑んだまま凍り付いた女性を踏みつけながら、人々は炎の中に飛び込んでいった。

 人は銃声のメロディーに合わせて、醜く歌う。

 こうして、世界から歌声が消え失せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銃声とうたごえ 道草 @michi-bun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ