煙
あはんへんほん
二つの煙
僕はまだ死にたくない。
「最後に……」
僕は服のポケットに手を入れた。
そこから、あるものを取り出す。
僕がいつも持ち歩いていた小さなプラスチックの箱だ。その中には……タバコが入っていた。
そのタバコを手に持たせると、母さんは何かを悟ったように目を瞑った。そして僕の手を優しく包み込んだ。
「……ありがとう」
たった一言だったが、そこには感謝の気持ちが詰められていた気がした。
それを見て、僕も満たされた気持ちになった。
僕は母さんに最後の別れを告げると、母さんの手を握り返した。そしてその手を優しく解くと、立ち上がる。
「ありがとう……さようなら」
もう戻れないところまで来てしまったが、最後に感謝を伝えることができた。
この言葉が今の僕にとっては精一杯だった。
僕は手に持ったタバコを口にくわえると、火をつけた。久しぶりのタバコの味だったが、なんだか懐かしかった。
今までずっと我慢してきたけど、最後くらい自由にさせてもらおう。そう思った僕は、ゆっくりと紫煙を吸い込んだ。肺に煙が充満するような感覚を覚える。
この煙が僕を母さんに近づけてくれるような気がして、なんだか嬉しい気持ちになった。
しばらくそれを繰り返していると、煙が脳まで充満してくるような感覚を覚えた。その不思議な感覚に身を任せていると、だんだん意識が遠のいていく。
(あぁ……これが死ぬってことか……)
もう何も考えられなかった。ただ目の前が煙とともに真っ暗になっていくだけ……。
そして最後に一言だけ残すことにした。
「ありがとう……母さん。」
そして僕の意識は暗闇へと落ちていった……。
煙 あはんへんほん @kamisaka_san
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