第19話

 それはとても聞き覚えのある声だった。

 

「え?この方誰?」


「えっと、五期生になる予定の天野大知さん」


「えぇええぇえぇぇぇ!?」


 ヒソヒソ喋っていたのにいきなり大声を出されてびっくりする。やっぱり悲鳴も似ている。間違いない。


「すみません、鶴留華乃さんですか?」


「え!私のこと知ってくれてるの!?」


「やっぱり。いつも見てます!」


 この方は前にも出てきた鶴留華乃さんだ。寝落ち配信で起き上がったときの声と似ていたのですぐにわかった。

 箱推しとはよく言うが、その中にも特に推している人はいるだろう。それが鶴留さんだ。本人に直接会えるなんて今世で一番嬉しいかもしれない。


「やばい〜ねぇ彩〜破壊力エグい〜」


「私もこれから同じ箱で活動していくってなるともう死んでもいいかも」


 よく聞こえないが...きっと褒めてくれているだろう。褒めてくれているに違いない。褒めてくれていると思うしかない。あー不安になってきた。


「これからよろしくね、大知くん!」


「はい!!」


 えぐー、あのあこがれの鶴留さんからこれからよろしく!だって。なんか嬉しすぎてもう死んでもいいかもしれない。


「だいたいのことはもうマネージャーさんから説明されてるのかな?」


「はい。この会社から配信日まで」


「え!配信日もう決まってるの!?教えて教えて」


「11/1の19時からです」


「へぇ〜!トッキーの日じゃん」


「そうなんですよ〜」


 推しと身近に会話できてる!嬉しい!最高!


「あ、連絡先交換しとこっか!」


「え、いいんですか?」


「もち!MAINでいいかな?」


「大丈夫です」


「なら私も〜」「私も」「私もいい!?」


「みなさんもよろしくお願いします」


 こうして俺は四人のライバーから連絡先をもらった。嬉しすぎるんだが???


「家族構成は...姉二人に妹二人?」


「そうです。とてもいい家族です」


「天野家って子供四人って公表してなかった?一人流産したとかなんとか聞いた気もするけど」


 芸能界で言われている天野家のタブーを直接踏んでいくなこの人。そこも面白くて好きだが、まわりの人はヒヤヒヤした顔をしている。


「検査して自分が男ってわかった瞬間、お祖母様が中絶とメディアに公表して自分の存在をずっと隠されていたんですよ。だからこれが初めてのメディア露出ってことになります」


「へぇ〜!そういえば、活動名聞いてなかったな」


「活動名もそのまま天野大知でいきます」


「「「「え?」」」」


「それ家的には大丈夫なの?」


「家族に聞いたら大丈夫と言っていたので、家の掟通りにしました」


「そうなんだ〜」


 と、他愛のない話をしているともう三時になっていた。


「あ、すみません。もう家に帰らないといけないので失礼します」



「はーい」「またコラボしようね!」「一緒にゲーム、待ってる」「遊ぼうね〜!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る