第67話 エマ・フィッツジェラルド(エマ視点)②

 それまでのあーしは、病気がちで気弱な子どもだった。

 いつも自信がなくて、他人が怖くて仕方なかった。

 やんちゃな男子や気の強い女子からはよくイジられたりもした。


「エマって、いるのかいないのかわかんねーよな」

「エマちゃん顔色わるすぎ〜」

「おまえってさぁ、なんもできなくね?」

「エマちゃんカワイソ〜」


 アイツらに悪気があったかどうかはわからない。

 けど、あーしはそれが嫌で嫌でたまらなかった。

 ところが、そんな憂鬱な日々が、ある日を境に一転する。

 全国同時多発的〔ゼノ〕発生事件からしばらくして......。



「あらエマ。今日も魔法の訓練をしているのね。そういえば今朝も新聞で読んだわ。期待の新人ジェット・リボルバー!またゼノから国民を守る!てね」


 ママが子どものあーしに向かってそう話すのが日常になっていた頃、驚くことが起こった。

 いつものように家でひとり魔法訓練(といっても実際はママゴトみたいなもの)をしていた時、あーしのお気に入りにしていた手鏡が不思議な光を放った。


「エマ?それ......魔法じゃない?」


 まだ幼い少女だったあーしが、〔魔法媒介装置アルマ〕を使った魔術を行使したんだ。

 

「す、スゴイわ!パパも呼んでくるわ!」


 ママとパパは驚嘆して、エマには類稀たぐいまれな魔法の才があると喜んだ。

 それからあーしは、学校のヤツらの前でも魔法を披露した。

 周りの見る目が一変した。

 男子はひるみながら驚き、女子は目を輝かせて感動した。

 同い年で魔法を使えるのはあーしだけ。

 あーしは、一気にヒーロー扱いされるようになった。 


 事実。

 あーしは一度、鏡魔法を駆使して悪ガキをらしめたことがある。

 そいつが悪さをする様子を映像におさめて、みんなの前で証拠を見せつけながら先生に言いつけてやった。

 そいつに迷惑していた生徒たちからは拍手喝采。

 ひとりの先生からはこう言われた。


「君は将来、国家魔術師になるかもしれないな」


 あーしは自分がジェットレディに近づけたような気がして有頂天になった。


 それからのあーしは......。


 気がつけば心身はすっかりと変貌へんぼうし、かつての病気がちで気弱なエマ・フィッツジェラルドはもういなくなっていた。

 もうあんな自分には戻りたくない。

 ナメられたくない。

 そういう気持ちも手伝って、あーしは強気で攻撃的なぐらいになっていった。

 今になって思えば、あーしにとってのピークはその頃だったのかもしれない。

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