第46話 ミア・キャットレー

 * * *



「ど、どうしよう。こんなに大事になるなんて......」


 生意気な特待生をちょっとからかうだけだって言っていたのに。

 いくらなんでもエマちゃん、これはやりすぎな気がするよ。

 こんなこと親に言えない。

 今はなんとか誤魔化しているけど、近いうちに必ずバレちゃう。


「でも、学校にも行けない......」


 だって、みんなからどんな目で見られるかわからない。

 かといって、風邪を装って布団にこもりつづけるのも限界がある。

 わたし、どうすればいいの?

 エマちゃん、最初はそんなことなかったのに、最近はちょっとおかしいよ。

 特待生がうちのクラスにやってきてからはコワイぐらいだよ。

 

「......あっ、そうか!」


 あの特待生がいけないんだよ。

 あいつがうちのクラスに来なければ、平和のままだったんだ。

 だったらこのまま退学になってくれれば解決するはず。

 わたしはこのまま大人しくしていればいいんだ。

 エマちゃんには助けてもらっているから、それにも応えたい。


「ちょっとミアー!起きてるー!?」


 ドアをノックしながらお母さんが呼んでいる。

 今は放っておいてほしいな。


「お友達がお見舞いに来たわよー!?」


 友達が来たって?

 エマちゃんが来てくれた?

 

「い、いま行くよ」


 わたしはベットから跳ね起きて扉に出ていった。

 

「ほらミア。お友達がお見舞いに来てくれたわよ?」


 そう言ったお母さんの後ろから、制服姿が見えた。

 けど、エマちゃんじゃない。


「フェエルくん??」


「やあ、ミアちゃん」


「なんでフェエルくんが??」


「なんでって、クラスメイトだしね」


「そ、そうだけど。あ、あと、その娘はだれ??」


「あ、うん。この娘はヤソミちゃん。普通科のなんだけどね」


「ど、どうもはじめまして。ヤソミです」


「ど、どうも、わたしはミアです」


 なにこの娘?見かけたこともないけど、普通科だからかな。

 でも、なんでこんな娘を連れて来たんだろう?



「と、ところでフェエルくん。今日はなんの用事なの?」


 門前払いするのも不自然なので、仕方なくフェエルたちを部屋に入れた。

 ふたりは椅子に腰かけると、フェエルが切り出してきた。


「わかっているとは思うけど、例の件だよ」


 一瞬ドキッとした。

 けど、想定内。

 焦る必要はない。

 冷静に返せばいい。


「例の件って?」


「ミアちゃん。ヤソガミくんの件に決まっているでしょ?」


「ああ、それね」


「ねえミアちゃん。ぼくは教えてほしいんだ」

 

「待って」


 わたしは先手を打ってフェエルを制した。


「まさか被害者の女の子に尋問する気なの?」


「ち、ちがうよ」


「ヒドイよ!まだ昨日の今日だっていうのに!」


 こういうふうに返せば、もうそれ以上は何も言えないはず。

 エマちゃんの言ったとおりだ。

 フェエルは困っている。

 あとは泣いているフリでもすれば......。


「ねえミアちゃん」


「なにも思い出したくない!」


「こっちのヤソミちゃんなんだけど」


「もうやめてぇ!......えっ?」


 フェエルがヤソミに目配せし、彼女が口をひらいた。


「あの、実はあたし......」


「??」


「ヤソガミくんの元彼女なんです」

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