第42話 ライマスの真骨頂

 *


「なるほど。そんなことになっていたのか」


 ライマスは腕を組んでむむむっとなる。

 状況も状況。今後のことも考え、ルームメイトにも一連の事情を説明した。

 ライマスが俺を信じてくれるかはわからない。

 だが、第三者として客観的な意見をもらえるかもしれない。


「それにしても......」


 ライマスは顎に手をあて、俺をじ〜っと凝視する。

 はたして俺のことを信じているのか疑っているのか、全然わからない。


「この女子が、ヤソガミ氏だとは......」


「な、なあ。俺の言うこと、信じてくれたのか?」


「ん?強制わいせつのハナシか?」


「強制わいせつなんかやってないってハナシ!」


「余に真実はわからん。だから信じるも信じないもない」


「そ、そうか」


「しかし、ヤソガミ氏の言うことが真実なら、その真実を証明すればいいではないか」


「ま、まあ」


「ところで、ヤソガミ氏」


 やにわにライマスの表情がキリっとなる。


「ひとつ言いたいことがある」


「な、なんだ?」


「一緒にお風呂に入らないか?」


 一瞬だけ時間が静止する。

 しかし次の瞬間、少女になった俺の身体はふわりと跳躍し、ルームメイトの顔面に鮮やかな飛び蹴りを放った。


「ぐはぁっ!な、なにをするんだヤソガミ氏!」


「このド変態がぁぁぁ!!」


 この機会に乗じてナニをしようとしやがるんだコイツは!

 フェエルからもキツく言ってもらおう!

 と友人に振り向くが、あれ?となる。


「フェエル?」


「や、ヤソみん......」


「ど、どうしたんだ?」


「か、か、か......カワイイー!!」


 フェエルは爛々らんらんと目を輝かせ肉薄してきて興奮を大爆発させる。

 こんなフェエル見たことない。


「お、おいフェエル」


「ななな何このカワイイ女の子は!?愛らしすぎるよぉ!!」


「ちょっと落ち着けって」


「落ち着いてられないよ!ぼく、こんなカワイイ妹が欲しかったんだ!」


「そ、そうだったのか」


「ヤソミちゃんって呼んでいい??」


「ヤソみんと変わらなくね!?」



 仕切り直して......。



 三人とも座り直し、ライマスが蹴られた頬を押さえながら言った。


「な、なるほど。ヤソガミ氏は外出したいのだな」


「さっきも話しただろ!」


「そ、そんなに怒らないでくれ」

 

「だが、今のヤソガミ氏はただの尊い黒髪ロリッ娘だ。そのまま行けばいいではないか」


「でも、その格好だと先生に怪しまれるでしょ?かといってその身体に合う服なんてぼくたちは持ってないよ。せめて女子の制服でもあればいいんだけど」


 フェエルが捕捉するなり、ライマスは間髪入れずに言った。


「余は持っているぞ?」


「えっ」


  サーッと凍りつく俺とフェエル。

 

「も、持ってるって......?」


「女子の制服を持っていると言っている。XSからXLまで、余は全サイズをコンプリートしている」


 ライマスの顔はキリッとして凛々しい。


「ついでに下着セットも持っているぞ」


 ひたすらドン引く俺たちをよそに、気を遣ってライマスから離れていたイナバが俺の肩にぴょんと乗ってニヤリとした。


「問題は解決じゃな」

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