第34話 当たり前の放課後

 *


 翌日の昼休み。

 フェエルと一緒に食堂のテーブルに着いた。

 今日はミアはいない。


「やっぱりミアは休みか」


「午後から来る可能性もなくはないけど、たぶんお休みだろうね」


「フィッツジェラルドお嬢さまも休みだよな。あの娘の場合はサボりっぽいけど」


「ミアちゃんもかも......」


「え?ミアも?」


「いや、前から少し気になっていたんだけど、ミアちゃんが休むときはエマちゃんも休みなんだ」


「一緒にサボってるってことか?あのミアが?」


「確認したわけではないからわからないけどね」

 

 フェエルと話しながら妙な気がした。

 あんなフツーに良い子そうなミアがサボったりするだろうか?

 魔術演習こそ遠慮気味だったけど、他の授業はいたってマジメに受けていたし。


「ま、まさか......ふたりで秘密の魔術特訓しているとか!?」


「うーん。それはないかなぁ」


「今度直接聞いてみるか」


「そうだね」


「いや待てよ?エマと休みが被っているのは偶然で、本当は家の事情とかだったら......あんまり詮索するのもアレだよな......」


「ヤソみんは優しいよね」


「そうか?」


 俺がフェエルに訊き返すなりイナバが机に飛び乗った。


「それは違うぞ、フェエル少年」


「なにが違うの?」


此奴こやつは優しいのではない。優柔不断なだけじゃ」


「そ、そんなことはないよね?」


 フェエルが気を遣って俺に振ってくる。

 俺はコホンとひとつ咳払いをしてから、イナバとフェエルに向かって言った。

 

「俺は思うんだ。きっと優しさって、優柔不断と紙一重だと」


「そんなお主は阿呆と紙一重じゃな」


 *


 その日の授業が終了すると、他の誰よりも先に席を立って教室を出ていく者たちがいた。

 トッパーとマイヤーだ。

 俺はまたヤツらがフェエルに絡んでくるんじゃないかと警戒していたが......何もなかった。

 やはり昨日の一件が効いているのだろうか。

 抑止力となっているのなら何よりだ。

 それこそ防衛の基本。


「じゃ、帰るか」


「うん。行こう」


 今日はあらかじめフェエルの帰り道に途中まで付き合う約束をしていた。

 もちろん目的はヤツらへの警戒だが、それだけじゃない。

 単純に仲良くなった者同士一緒に帰りたかった。

 その気持ちはお互い一緒だったんだと思う。

 フェエルも昨日みたいな遠慮はしてこなかった。



「どう?ここ、前から気になっていたんだ」


 とあるカフェまで来て、フェエルが嬉しそうに口元を緩ませる。


「こんなふうに放課後に来てみたかったんだ」


 俺たちが足を運んだのは、リュケイオンにある落ち着いたカフェ。

 窓際の席に着き、フェエルは目を細めて外を眺める。


「なんかいいよね、こういうの」


「そうだな」


 中学時代、ずっとぼっちだった俺には、こういうことは新鮮。

 感慨深さすらある。

 フェエルにとってもそうなのかな。


「ん?あれって......」


 不意にフェエルが視線の先に何かを見つけた。

 つられて俺も視線を転じる。

 知った姿が目に映った。


「エマとミア?それに......トッパーとマイヤーもいるな」


「やっぱり、ミアちゃんもサボっていたみたいだね......」


 フェエルの目はどことなく哀しそうだった。

 

「本人に聞くまでもなくなっちゃったな」

 と口にしながらも、俺はどうも不自然な気がした。

 ミアは本当に楽しいのだろうか。

 流されているだけなんじゃないか。

 なんて余計なお世話か。

 

「とりあえず、ヤツらがこの店に来なくて良かったな」


「たぶんエマさんやトッパーくんたちはこういう感じのお店には来ないと思うよ」


「それは言えてる。品のないアイツらにはもっと騒がしい所がお似合いだ。工事現場とか。いや、工事の邪魔だな。現場の人たちに迷惑だ」


「ちょっと失礼だよヤソみん......」


 フェエルは俺に注意するも、即座に口を押さえて失笑。

 俺も吹きだして笑う。


 ......ヤバい。

 すごく楽しい。

 こうやって放課後、友達と一緒に寄り道してくだらない話をして笑い合う時間。

 他の人たちにとっては当たり前なんだろうけど、ずっとぼっちだった俺には夢にまで見た時間。

 

「クククク......おいフェエル、笑いすぎだぞ!」

「クスクスクス......や、ヤソミんこそ笑いすぎ!」


 友達と過ごす、当たり前だけど、夢にまで見た時間。

 俺たちは時を忘れて心の底から楽しんだ。


 そんな中。


「オイ小僧!そろそろオイラを出せ!」

 と鞄から苦情の声が届いたが、

「無理だよ。ここ、ペット同伴禁止だし」

 テキトーにやり過ごした。

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