第16話 特異クラス
「ところで先生」
「なんでしょう?ヤソガミ君」
「今日、俺だけ登校時間をズラしたのは初日だからですか?」
実は今日、俺は他の生徒と登校時間が微妙にズラされていた。
だからこの時間はすでに一限目が始まっていて、広い校舎の中でも他に歩いている生徒がいなかった。
「もう授業も始まっているんですよね?それなのに先生に出てきてもらって悪いなって」
「ああ、そんなことは気にしなくて構わないですよ。私のクラスには関係ないですからね」
「はあ」
「それに登校時間をズラして私が出迎えたのは、絡まれないためです」
「か、からまれる?」
「まあ細かいことは気にしないでください」
いや気になるんですけど。
不安になってきたんですけど。
それに不安といえばもうひとつある。
「あ、あの、教室がやけに遠い気がするんですが......」
さっきから通路をかなり歩いているけど、一向にたどり着く気配がない。
もう教室らしい教室はすべて通り過ぎてしまった気がする。
「特異クラスの教室は少々離れた場所にありましてね。もうしばらくご辛抱ください」
先生は淡々と答えるだけ。
不安は募るばかり。
そうこうしているうちに......。
「こちらが特異クラスの教室です」
やっと教室前に到着した。
到着したけど......。
「ここですか!?」
一番に文句を言いそうなイナバは俺の頭の上ですぴ〜と寝ていた。
おい!肝心な時にコイツは!
「ここって使われている部屋なんですか?と言いたげな顔ですね」
「い、いえ!まあ、はい......」
そこは明らかに他の教室から隔離され区別された場所にある、今では使われていないような妖しい教室だった。
「なんというか......雰囲気のある教室ですね......」
もはやそうとしか言いようがなかった。
あとこれは関係ないだろうけど...校舎の玄関はちょうど南方向。
そしてこの教室の位置は建物の北東の端っこ。
つまり......鬼門の位置!
鬼門とは邪気の出入りする方角を意味する。
ただの偶然だろうか?
「ヤソガミくん?どうしましたか?入りますよ?」
「は、はい!!」
覚悟を決めよう。
もう行くしかない。
でもその前に、イナバを鞄の中にしまって......と。
そういう意味ではイナバが眠っていてくれて良かったかも。
「では参りましょう」
ハウ先生が教室の扉を開けた。
先生に連れ立って教室に入っていくと......意外にも広々とした室内はガランとしていた。
古びた大学の講義室のような教室に、ニ十人ほどの生徒がポツポツと着席している。
壁や床や机や椅子には、使い古された形跡がありありと滲み出ている。
ふと視線を上げると、ホールのように天井が高い。
......ひょっとして室内で魔術の演習をしたりもするのかな。
「皆さんに、新しいクラスメイトを紹介します」
ハウ先生の言葉にみんなの視線が一気に集まる。
やばい。
めっちゃ緊張してきた。
ち、ちゃんと噛まないで挨拶できるかな。
「あ、あの、えっと、
ハズい!
声のボリュームおかしかったかも!
笑われるぞコレ!
「......あれ?」
シーン。
誰ひとりノーリアクション。
笑われるどころか、反応ひとつなし。
これはこれで......キツイかも。
その時。
パチパチパチパチ
ひとりが拍手をした。
目をやると、紅髪で細目のイケメン男子が微笑んでいた。
彼につられて、何人かの生徒も拍手をした。
「ではヤソガミ君。席に着いてください」
先生に着席を促される。
「あ、席はどこでもいいですよ。自由に好きな所へどうぞ」
自由に好きなところって言われても...どうしよう。
空いている席はいっぱいあるけど......。
「!」
壁際の奥にいる奴ら......不良か?
ガラの悪そうな男子が目つきの悪い顔で机に足を乗せている。
「アイツらには、関わっちゃダメだ......」
心の中でつぶやきながら窓際の真ん中ぐらいの席に着いた。
前二列は空いていて、二列後ろには気の弱そうな銀髪の生徒がひとりうつむき加減で座っている。
なんとなくここなら安全かな、と思った。
......て、こんなマインドで大丈夫かな?
また中学時代のようなぼっち生活は嫌だ。
でも、いきなりガンガン行くのはそもそも性格的にムリだし。
いや、まだ最初も最初だ。
今はこれでいい。
きっと大丈夫だ。
と思いたい。
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