命懸け

間に合え……!

無慈悲に振り下ろされた猿の腕は肉を引き裂き腹に激痛が走る。

ギリギリ間に合ったか……

剣で防ぐことは出来なかったが何とかミーシャちゃんを狙う初撃は防ぐことができた。


「おにいちゃん!」


痛みを堪え猿と向き合う。

出血は多いものの内臓は傷ついてなさそうだ。

問題なく動ける……!


(本当に嫌なタイミングで現れたものだ)


しばらく睨み合っていたが先手を打ったのは猿だった。

冷静にこれを見極めカウンターをいれるが素早い身のこなしで躱される。

そのまま猿の攻撃を防ぎ攻撃しようとしても躱される一進一退の攻防が続く。


(決め手に欠けるな……血を流しすぎたか……)


本来なら猿の魔物に遅れなんか取らないが散々森を走り回り熊の魔物と連戦し疲弊した体での負傷だ。

どうしても剣の振りの鋭さは失われていく。


(もう体力も少ない……ミーシャちゃんを巻き込まないよう浅い集中に賭けるしかない)


もはやどこまで体が動いてくれるのか分からないが目を閉じ集中する。

ちゃんとミーシャちゃんの気配も感じることが出来てるから巻き込むことはない。

突然俺が止まったのを好機と見たのか猿はすぐに突撃してくる。


(くらえ……!)


素早いステップで躱し脳天に一撃。

間違いなく猿は絶命したが油断することなく再び索敵する。

今回はもう周りに敵はいないようだ。


「ミーシャちゃん大丈夫かい?」

「おにいちゃん……血が……」

「おにいちゃんは大丈夫さ。ミーシャちゃんが無事ならそれでいい」


ミーシャちゃんに怪我は無さそうなので服を裂いて素早く自分の腹の止血をする。


「それじゃあ行こうか」

「……うん」


ミーシャちゃんをおんぶし村を目指して歩き始めた───


◇◆◇


20分ほど歩いただろうか。

ようやく村が見えてきた。

緊張で強張っていた体がなんともいえない安心感に包まれる。

村の人達はみんな待っていてくれたみたいでフィア達が駆け寄ってくる。


「アル!」

「アルバート!お前その傷は……」

「はは……ちょっとしくじってな。ミーシャちゃんを頼む」


背中にいるミーシャちゃんをジャックに託す。

それを見届けると突然目の前が真っ暗になり体に力が入らなくなる。

あれ──?おかしいな……なんで力が……


◇◆◇


ふと目を覚ましたときそこは見覚えのある天井だった。

辺りを見渡すとそこはいつもフィアと一緒に寝ているベットの上だった。


「なんで……いてっ!」


突然腹に激痛が走り記憶がはっきりしてくる。

俺は魔物達と戦って……そうだ、ミーシャちゃんは!?

急いで確認しようとすると椅子に座りベットに突っ伏して眠ってしまっているフィアとミーシャちゃんの姿があった。


「看病してくれてたのか……」


ミーシャちゃんを助けて自分も生きて帰ってこれた実感が湧いてきて嬉しくなる。

愛しい婚約者にも触れられるんだしちょっとくらいいいよな……?

起こさないようにそっとフィアの美しい黒髪を撫でる。

しかし朝に弱いはずのフィアは目を覚ましてしまった。


「おはよう、フィア。起こしちゃってごめん」

「アル……?ちゃんと生きてるよね……?」


みるみるフィアの瞳に涙が溜まっていく。

そして傷に障らないよう優しく抱きしめてくれた。


「心配……したんだからね。いつもアルは誰かのために無理ばかりするんだから……」

「ごめん。心配かけさせちゃって」


フィアは堪えきれなくなったのか涙を流して抱きしめる腕に力を込めてきた。

優しく抱きしめ返して頭を撫で始める。


「怖かった……アルがいなくなっちゃうんじゃないかって……」

「今後も無茶はするかもしれない。それでもフィアより置いて死なない。約束するよ」


胸を張ってフィアの隣にふさわしい人間でありたい。

それは自分さえよければいいなんて自己中心的な人間ではないはずだ。


「うん……約束」

「ああ、約束だ」


子どものように小指を絡め合って約束する。

その光景に俺もフィアも自然と笑顔になる。

そして目を閉じ唇が近づいく───


「アルバート〜!お見舞いに来た……ぞ」


いきなり扉が開き慌てて顔を背ける。

見るとジャックが申し訳無さそうな顔で固まっており後ろではアンが呆れていた。

部屋がなんとも言えない気まずい雰囲気になる。


「あー……えっと、ごめんなさい」

「普段からノックしろとあれだけ言ってるのに……ごめんなさいね、ジャックが良いところを邪魔してしまって」


アンから改めて言われると恥ずかしくなってくる。

フィアも耳まで真っ赤になって手で顔を隠していた。


「いや、不可抗力だししょうがないさ」

「違うんだよぉ……違うのアンちゃん……」


フィアは何やらアンへの弁明タイムに入っていた。

軽い騒ぎにミーシャちゃんも起きた。


「あ!おにいちゃん!」


満面の笑顔で飛び込んでくる。

めちゃくちゃ腹の傷が痛いけど可愛いからよしとしよう。


みんなに囲まれて笑い合い生きてることを実感する。

本当にみんなが無事で良かった……!

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