ダブルベット

月が照らす夜道をフィアと共に歩く。

だいぶ遅くなってしまったけど家具屋はまだ対応してくれるだろうか。


「どんな家具を入れる?もうあの家は私たちの家だから自由に模様替えできちゃうんだよね」

「もちろん。俺は使えれば何でも良いからフィアの好きにしていいよ」

「えーアルも一緒に模様替えしようよ〜」

「そう言われてもこだわりとか無いからなぁ」


どんな家具が良いかを話しながら家具屋を目指す。

そしてジャック達に言われた場所に到着した。


「ここが家具を作ってるお店?」

「そうらしいな。とりあえず確認してみよう」


家に明かりがついているので中に人がいるのは間違いないだろう。

俺は軽く扉をノックする。

するとすぐに扉が開いた。

中から気の弱そうな30代くらいの男性が出てきた。


「あのぅ……どちら様でしょうか?」

「初めまして。今日この村に移住してきたアルバートです。ジャックにここにくれば家具を売っていると聞いたもので」

「おお……君たちが噂の移住者か。さあ、入ってくれ。金はあるのかい?」

「申し訳ないんですが今あまり持ち合わせが無いものでして……」

「君たちはまだ若い。払えるようになったら返してくれたらいいさ」


ジャックの言った通りツケで良いらしい。

村の人の優しさに感謝でいっぱいだ。

お言葉に甘えて家の中にお邪魔させてもらう。

中には若い女の人と小さな女の子がいた。


「あらーこんばんは。あなた達が例の移住者さん達なのかしら?」

「おにいちゃんとおねえちゃんだーれ?」

「ミーシャ。この二人は新しくこの村に来た人たちだよ」

「そうなの〜?」

「ミーシャちゃん。私ソフィアっていうの。ミーシャちゃんと仲良くしたいな?」

「うん!ミーシャもソフィアおねえちゃんと仲良くなりたーい」

「はぅ……!可愛い……!」


フィアは子供が好きなのかだらしない顔になる。

流石に小さい女の子相手に嫉妬なんてしたりしない。

……男子相手だったらどうなるか分からないけど。


「さぁお二人とも家具が欲しいんでしたよね?奥の工房にありますので行きましょう」


家具職人さんに連れられ家の奥にあるという工房に向かう。

フィアはミーシャちゃんと奥さんの二人とあっという間に仲良くなっていてワイワイ話ながら全員で移動する。

奥の広い工房には様々な種類の家具が置いてあった。

たくさんの道具があって少しワクワクする。


「さて、お二人はどんな家具をご所望なのですかな?」

「今回はベットだけでいいです。それさえあればとりあえず快適に過ごせますので」


これはあらかじめフィアと相談して決めてあった。

いくらツケで良いって言ってもやりすぎはこちらも罪悪感があるし家にも古い家具は残っている。

ただベットはマットレスや布団が悪くなっていたのでせっかくなら新調しようという話になったのだ。


「ベットですね。それならこちらに数種類ありますよ」


様々な種類のマットレスがあってつい先程フィアにこだわりは無いと言ったばかりだが色々追求してみたくなる。

だがどれも良くて何がいいか迷ってしまう。


「うーんどれがおすすめとかありますか?」

「そうですね……何か要望などは?」


寝心地が良いのがいいです、と言おうとした瞬間、今まで興味深そうに色んなベットを見ていたフィアが声を上げる。


「アル。私一つだけ要望あるんだけどいいかな?」

「ああ、もちろんいいぞ」


自分のベットを決めるのになぜ俺の許可が必要なんだ?

それくらい好きに決めても誰も文句は言わないのに。


「それじゃあ私ダブルベットがいいです!」


……ダブルベット?

俺の聞き間違えか?


「ほう、ダブルベットですか」

「はい!」

「あらあら〜!若いって良いわね」


聞き間違えじゃなかったわ!

いきなりプロポーズした俺が言えることじゃないかも知れないけど初日から同じベットは飛ばし過ぎじゃない!?

ほら、家具職人夫妻に微笑ましい目で見られちゃってるよ……


「ちょ、ちょっと早くないですかね……?」

「私たち夫婦みたいなものでしょ?早くないって!」


確かに結婚式をしてないから夫婦ではないけど婚約者であることは間違いない。

それに俺だってフィアと一緒に寝たくない訳では無いし性欲も兼ね備えた普通の男だ。

結局断る理由も無いことに気づきダブルベットを頂いた。


◇◆◇


家具屋さんを後にした俺たちは手分けしてベットの部品を持ちながら我が家へ帰った。

ベットが組み立て式で良かった……

今日は1日中掃除をしたりなんやかんやでドタバタして疲れていたので二人は早めに休むことにした。

速やかにベットを組み立てて交代でシャワーを浴び寝る準備をすませる。


「そ、それじゃあ寝ようか?」

「う、うん。そうだね」


自分から提案したくせにいざ寝るのは恥ずかしいらしい。

それでも意外とあっさりとベットに寝転がった。

お、俺も入らないとな……!

意を決して俺もベットに寝転がる。

フィアの甘い香りがして頭がクラクラしてくる。

これはまずいぞ……!

本能で危険を察知しフィアに背を向ける。


「ねぇアル。寂しいからこっち向いてほしいな……」


そんなこと言われたら断れないじゃないか……!

仕方なくフィアの方を向くといきなり抱きついてきてキスされた。


「えへへ。おやすみっ!アル」


俺が固まってしまってしばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。


……眠れない。

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