悲願の涙

「フィア、大切な話がある」


意を決して切り出す。


「……?どうしたの?」


聞かなくていいなら聞きたくない。

それでもこれはフィアの為なんだ。


「単刀直入に言う。フィア……俺は必要か?」

「え?」


フィアはもう自由になったんだ。

専属従者だった俺はフィアが王女であった象徴の1つでもある。

王女それが嫌な記憶であった以上は俺がいないほうがフィアは幸せに暮らせるんじゃないか?

この村で新しい人間関係を築いたとき俺は必要なくなるんじゃないか?

そんな考えがあった。


「俺はフィアの重荷になっていないだろうか?」


例えばこの村でフィアが恋をしたとき俺は明らかに邪魔だ。

フィアが新しいことを求め続けるうえで俺は過去の遺物として邪魔でしかない。


「フィアの幸せを……邪魔してはいないだろうか?」


自分から言ってるはずなのに身勝手にも心が張り裂けそうになる。

それでも俺は……フィアの為なら……!


「……んで」

「俺は……」

「なんでそんなことを言うのっ!?」


フィアが抱きついてくる。

その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「だってフィアは自由になったんだよ?専属従者でもない俺と無理して一緒にいる必要はない」

「私は……!私はアルと一緒がいいの!専属従者のアルバートじゃない!一人のアルと!」

「……!!」

「まだまだいっぱいやりたいことがあるの……!家事だって色々教えてもらいたいしお料理だって頑張ってアンさんに習うから食べてほしい……!それも全部アルと一緒がいい!」


その言葉を聞いた瞬間、専属従者であった自分が消えた気がした。

立場なんて全く関係ない、ただ一人の人間としてソフィアはアルバートを求めた。

アルバートの頬を涙が伝う。


「俺はフィアと一緒にいていいのか……?」

「うん……!ずっと、ずっと一緒にいてほしい」


俺もフィアを優しく抱きしめ返す。

ずっと不安だった。

でもそんなことはないとフィアが教えてくれた。

どれくらい泣き合っていただろうか。

気がつけば夜になり空には月と星が輝き始めていた。


「ねえ、アル」

「ん?」

「アルはどうして私と一緒にいてくれるの?私が王女だったから?それとも幼馴染だから?」


フィアは頬を少し赤く染め潤んだ瞳でこちらを見てくる。

その姿はまるで何かを待ち望んでいるようだ。


「俺は……」


フィアが真剣な顔で息を呑む。

俺がフィアに一緒にいたい理由なんて昔から変わってない。

幼い頃フィアの笑顔に救われてからずっと───


「俺はフィアのことが好きだ」

「……!」


ああ……やっと言えた……

ずっと叶うはずないことを夢見て胸にしまい続けてきた言葉だ。


「笑顔が素敵なところも、優しいところも、好奇心旺盛なところも、からかうのが好きなことも……!他にも好きなところは数え切れないくらいあるんだ……!だから……だから……!」


片膝をつきフィアの手を取る。


「俺と……結婚してください……!」


指輪も交際も無い突然のプロポーズ。

それでもこの溢れる想いを止められなかった。

ずっと一緒に生きてきた幼馴染が愛しくて仕方なかった。

一世一代の告白に緊張しているとフィアの瞳から涙がこぼれる。


「あ、あれ……?おかしいな……涙が止まらないよ……」


フィアの涙を見て慌てて立ち上がる。

冷静でいようとしてもフィアが絡むとどうしても慌ててしまう。


「そ、その……返事は焦らなくてもいいから……!だから」


だから泣かないでと言おうとした瞬間、唇に柔らかいものが触れる。

それがフィアの唇だと理解するのに数秒かかった。


「私も大好きだよっ……!アル……!」

「それじゃあ……」

「こちらこそよろしくお願いします……!私の世界一カッコいい旦那様!」


二人は見つめ合ってもう一度唇を重ねる。

唇が触れるだけの優しいキス。

数秒して離れると二人とも顔が赤らみながらも幸せな顔をしていた。


「そ、それじゃあ遅くなっちゃったけど、家具をもらいに行こうか」

「ふふ、照れ隠し?」

「……そういうフィアの顔だって真っ赤じゃないか」

「だって嬉しいんだもん」


二人の間に重い空気なんて存在しない。

あるのは明るい笑顔だけ。

そんな二人を祝福するかのように月が美しく輝いていた。


─────

☆を頂いたのでもう一話投稿

今後もこの作品をよろしくお願いします!


……☆をください

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