お誘い快諾
「二人とも……うちの村に来ないかい?」
「「え?」」
ジャックから出た言葉はまさかの移住の勧誘だった。
「うちの村っていうのはどういうことだ?」
「ジャックさんは王都に住んでるんじゃないの?」
「俺は王都から距離が離れた村に住んでるんだけど今回は祭りの物資の調達に来ていたんだ」
なるほど調達か……
だからあんなにも大きいバックを持っていたのか。
「うちの村は田舎で人手はいくらあっても困らないから移住希望者はウェルカムなんだ。ご希望の畑や家も用意できると思うよ」
「治安とかはどうなんだ?危険な場所にフィアを連れて行きたくないんだけど」
「それも問題ないさ。村の人達はみんな仲が良いし助け合って生きている。唯一の欠点を挙げるなら大きい街が遠いね」
聞いた感じ悪くはない。
嘘をついているようにも見えないし無理やり連れていきたいなら大きい街が遠いなんて自分から言う必要もないからな。
信用してもよさそうだ。
だが決めるのはフィアだ。
俺にとっては主従関係が無くなったとしてもフィアの幸せが第一だ。
「悪くはなさそうだけどフィアはどうしたい?」
「いいと思うよ。ジャックさんも悪い人に見えないし」
陰謀が渦巻く王城で育ってたフィアがそう言うなら俺の見立ても間違ってはいないだろう。
それに何かあってら俺が命に変えてもフィアを守ればいい話だ。
「分かった。移住させてもらってもいいか?」
「もちろんだよ!さっきも言ったようにちょうど一年に一度の祭りがあるからぜひ一緒に参加してほしい」
「楽しみだね!アル」
「そうだな」
本当にセルジシスに来てからのフィアは楽しそうだ。
亡命が成功して本当に良かった。
「じゃあ俺は祭りに必要なものを買いに行くけど二人はどうする?」
「私たちも手伝うよ」
「ああ、これから同じ村の仲間にしてもらう新参者だからぜひ手伝わせてもらうよ」
それから俺たちは買い物をし次の日に出発するとのことなので宿をとり一晩を過ごした───
◇◆◇
「おはよう、二人とも。昨日の夜はよく眠れたかい?」
「ま、まあな……」
「ばっちりだよ」
フィアが元気で俺がぐったりしている理由。
それは単純にまたフィアと同部屋だったため寝られなかったのだ。
既に国境を越えているから別の部屋でも特に危険は無いというのにフィアがどうしてもと言ってまた同じ部屋に案内されてしまったのだ。
おかげで寝不足になってしまった。
毎回思うがなぜフィアは同部屋でも眠れるんだ?
俺は男として意識されてないのか……?
「それは何よりだよ。なにせ村に着くまで時間がかかるものでね」
「どのくらい遠いんだ?」
「片道2週間ほどだね」
「思ったより遠いんだね。ジャックさんはそんな長い道のりを一人で来たの?」
「一応多少は武術の心得はあるんだけど昨日は油断してしまったんだ。二人がいなかったら村のみんなに怒られてたよ」
ジャックが戦えるのは見てわかった。
だからなんであんな素人にスられたのか分からなかったのだがまさかのただの油断とは……
おそらく実力よりも性格の問題なんだろうな。
「でもアルバートは強そうだし安全に帰れそうだ」
「残念ながら俺はフィアを優先して守る。ジャックも戦えるんだから自分の身は自分で守ってくれよ?」
「つれないねぇ」
正直ジャックとは気が合いそうだ。
同じ村に住むのだしこれからもっと仲良くなれるだろう。
「……二人とも仲良さそうだね」
「あはは、アルバートは面白い奴だからね」
「うるせぇよ」
「アルに友達が私より早くできるなんて……なんか悔しい」
「大丈夫だって。村に着けばソフィアちゃんと気が合いそうな人もいるから」
「むー……まぁ楽しみにしておくね」
「よし!それじゃあ出発しようか!俺たちの村『メネア』へ!」
俺たちは王都カチトラスを出発する。
どうやらメネアの村はブロードベント王国と正反対の北西に位置しているらしい。
田舎なら情報漏れの可能性も薄いしカルヴァン家が追手を仕向けたとしても俺たちの知り合いがセルジシス王国にいないのだから居場所がバレることはないだろう。
「楽しみだなぁ〜!ねぇジャックさん。メネアについていろいろ教えてくれない?」
「いいよ。メネアは人口500人くらいの村で自然がきれいなんだ。水もきれいな上に山から流れてるから栄養たっぷりで作物が美味しく育つんだよ」
美味い作物にきれいな自然か。
のんびり暮らしたいと言っていたフィアの理想にぴったりなのではないだろうか。
「大体村では物々交換だからお金は一ヶ月に一回来る商団や街での調達くらいにしか使わないんだ」
「物々交換……!そんなの実在したんだ!」
フィアはお金を使った買い物か国民が善意で物をくれたり、といったことしか経験したことがない。
周りに同世代の子供もいなかったから憧れもみたいなものなんだろう。
まぁ俺もしたことは無いが……
「そんなわけで田舎ならではの人付き合いは多い。自分から遠ざからなければ自然と友達はできるよ」
俺とフィアはまだ見ぬ新天地に思いを馳せ、ジャックにいろいろなことを教えてもらったりしながら2週間という旅路を進んでいった。
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