2-3 素早い電撃
カナミ・リザードの放った電撃、その攻撃範囲は非常に広かった。
マナダンの魔球を電撃に当てることはできたが、避けるように拡散してしまい、完全に打ち消せなかった。
電撃が俺を囲むように背後に周り、多方から襲う。
「ぐああああああああああ!!」
一瞬の出来事に為す術もなく攻撃は直撃した。
全身が焼けるように熱くなって力が抜ける。立つことすらままならず、倒れこむ。
「クッ……うう……!」
しびれて体が動かせない。
確かに厄介な敵だ。避けるのが難しい攻撃を1回食らうだけで、ここまでの損傷が出てしまうとは……。
「ユチルス!」
回復技が無ければこのまま負けるところだった。
すぐさま体勢を整えなくては……。
「グギャアアアアアア!!」
リザードは、俺が立ち上がる前に再度電撃を走らせた。
こいつ……攻撃後の隙が少なすぎる!
「ぐううっ……! うっ……?」
だが、今度は威力が低い。痛みはあるが動けないほどではない。
もしかしたら魔球を当てたことが逆効果だったのか、それとも威力を落としているのか……。
頭を覆って攻撃に耐えていく中、答えが分かった。
「持続攻撃か……!」
今のリザードは高火力の電撃を一発吐き出したわけでなく、電気をまとった光線を吐き出し続けていた。
回復技があることを理解し、戦略を変えたようである。
「グググ!! ギョアアアアアア!!」
リザードは首を激しく横に振る。光線も当選左右に振れ、一直線の攻撃から乱雑な範囲攻撃に変化した。
どうすればいい? 致命傷ではないが確実に体力を削っていく攻撃だ。少しずつだが、体の痛みも蓄積している。
どちらにせよダメージを食らうのであれば、短期決戦以外の道はない!
俺は防御の姿勢を止め、勢い良く前に出た。
攻撃中は防御が薄くなる。それを利用しない手はない。できるだけ距離を詰め、魔球を撃ち込めば勝機はある。
「グルゥ……!」
しかし、見計らったようにリザードは光線を止めた。
またも、読まれたというのか……!
「グギャアアアアアア!!」
再度放った電撃はどんどん太くなり、渦巻くように広がり、大きくなっていく。
これは最初の攻撃と同じ……高威力の電撃だ。
「ぐっそ……!! ああああああああああ!!!」
先ほどより強い衝撃が全身に走った。トゲで刺されるような痛みが体中を襲い、力が抜けて後ろに倒れる。
「う、あうう……」
マナダンによる威力減衰はしっかり機能していたようだ。直で食らったら前回の比ではない、焼け死ぬような痛みが指先まで届く。
もうダメだ……。
ついには握力すら無くなり、杖すら持てなくなった。
「あ、あ……」
ユチルスが使えなかったらこのまま死へ向かうのみ。
不可能だろうとなんだろうと杖を再びつかまなくてはいけないのだが、体は全然言うことを聞かない。
「グワワアアアウウ!!」
リザードは容赦なく襲ってくる。口を大きく広げ、俺の右足を飲み込んだ。
「ぬあっ……!」
膝の下が生暖かい湿り気に包まれる。
「ハグッ! ハッ! ガアアアッ!!」
ザグッ、という音とともにリザードの口が閉じた。
牙が足に突き刺さる。リザードは首をねじって強引に引き抜こうとする。
「あ、ああ……!」
膝から下の感覚がプツりと断たれる。どんなに力んでも痛みは膝までで、その先は空気が通り抜けるような、不思議な感覚に包まれる。
食われた、食われた食われた。俺の足が食われた。
終わった……。
ユチルスはあくまで新陳代謝を促進する効果の技だ。自然に回復できる範囲を超えたケガは、回復呪文を使っても体は万全にならない。
旅をしてまだ間もないが、ここで俺の人生ごと終了だ。涙が瞳に浮かび上がり、見えている世界がぐちゃぐちゃになる。
完全に生きる希望が消えたとき、かすかに声が聞こえた。
「マナルキ!」
ぼんやりとしていた視界の中に、紫の光が一瞬よぎった。
「グッヤアア!!」
「……バカ。やっぱり負けてる」
何があったのか、得られる情報が少なすぎて分からなかった。
声には聞き覚えがある。最初はリザードの声、そして次に聞こえたのは、少し前まで聞いていた冷たい声。
「ツデレン……?」
「そう」
この素っ気なさは、間違いなくツデレンだ。
「グゲンフルス!」
別の呪文が聞こえると、体の痛みやしびれが徐々に引いていった。それだけでなく、消えていた足の感覚も復活する。
「おっ……おお! すごい……!」
体を起こすと、食われたはずの足が本当に元に戻っていた。
完全に再生する類の回復術だ。悔しいが俺より高度な呪文である。
「…………」
俺は周囲を見て状況を確認した。ツデレンの持っている杖の先からは、紫の光を剣のように伸びていた。カナミ・リザードは首を断たれ、胴体真っ二つに分かれていた。
「あの……ありがとう」
「アンタのせいだからね。被害が出るかもとかアンタが言うから……気になって付いて来ちゃったの」
ツデレンは鋭く俺をにらむ。しかし口はプルプルと震えていて、目元に涙がたまっている。
「そしたらアンタ自身が被害者になっているし……バカ! バカバカ!」
左手で俺の服をつかんだツデレンはついにほほに涙を伝わせてしまった。真っ赤な彼女の顔を見ると、心がチクチクとする。
「それは……ごめん……」
「とにかくモンスターは倒したから、早く出ていきなさい!」
少しだけ落ち着きを取り戻したツデレンは、涙を拭ってそっぽを向く。バサカのほうへ戻るつもりなのか、リザードの首と胴体が残された通路を進もうとする。
その時、俺はある異変に気づいた。
「いや待った。モンスターは倒したらセッカケラになるはず……」
一般的な生物とモンスターの違い、それはダメージを受けるとセッカケラという鉱物に変わることだ。首を断たれたのにそのままなんてありえない。
つまり、まだこいつは生きている。
「え? あ、ほんとだ……」
ツデレンがきょとんとした次の瞬間、リザードの頭から胴体が生えてきた。胴体からさらに手足や尻尾が生え、ウロコも浮かび上がってくる。
「グギャアアアアアアアアア!!」
完全に元の姿に戻るとともに、首のない胴体はドロドロに溶けていった。電撃の使い分け以外にも厄介な能力を持っていたらしい。
「チイッ! アンタは私の後ろに隠れて!」
ツデレンは俺の前に出て、羽織っていたマントで全身を隠した。
「グギャア! グギャグギャ!!」
復活直後であろうともリザードは元気よく攻撃に転じる。今回はツデレンを最初から回復技持ちと判断したためか、最初から持続性の高い電撃の光線を放ち続けた。
「…………」
彼女のマントは電気への耐性があるらしく、攻撃を吸収するかのように抑えていた。それでもツデレンの表情は険しい。
「これからどう戦うつもりだ?」
「知らない。私だってこいつとちゃんと戦うの初めてだもん。どうであれまずは攻撃を耐えきらなきゃ」
「おぉ……そりゃマズいな」
あくまでも逃げるための備えをしていただけらしく、戦闘の対策は特にないらしい。こうなるとかなり厳しい戦いになる。俺も知恵を絞らなくてはいけない。
「どうやって勝てば……そうだ!」
俺はツデレンの持っていた杖を手に取った。杖は熱を帯びていて、人肌以上に暖かかい。
「はぁ? ちょっ!? 何をする気?」
「俺がこれで斬る。横がダメなら縦に真っ二つにすればいい」
まだ杖先は紫の光が刃のように帯びている。非常に鋭利な形をしていて、全てを断ち切れそうな気迫を感じられた。
窮地に立たされた状況で見出した勝利への道筋、次こそ……次こそ絶対にヤツを倒さなくては……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます