第23話 助かったけど助かっていない

『少佐! 味方と合流したら、すぐに救援を願います!!』


 この規模の敵に、新米のPS(パワードスーツ)だけで戦えるはずがない。

 死ぬ気だ。


 覚悟を決めたコウ少尉は、『エイジス』を装着したまま、2mの人型で長距離移動ユニットから離脱しようと――


 ドオオォッと音が響きそうな勢いで、ピンク色の太いビーム。

 俺たちに迫っていたマシンクリーガーの駆逐艦隊をかすめつつ、宇宙の彼方へ飛び去っていく。


 けれど、その周辺にいたPSとほぼ同じメリフ(機械生命体の略)が、次々に爆散する。


『すごい……。何て威力だ! これじゃ、艦砲と区別がつかないぞ!?』


 俺たちが通ってきた方角から、第二射、第三射がやってくる。


 今度は駆逐艦に直撃して、そのまま爆発。


 大混乱に陥った敵艦隊は、メリフたちが一斉にそちらへ向かいつつ、駆逐艦も戦列を組み、一斉射撃を開始した。


「コウ少尉! 今のうちに味方がいるほうへ!!」

『ハッ! ただちに!』


 俺たちが乗る長距離移動ユニットは、各所のスラスターで向きを変えて――


『くそっ! 見逃してはくれないか!』


 コウ少尉の叫びで、一部の敵が向かってきたことを知る。


 けれど、打ち上げロケットのような勢いで飛んできた『シルバー・ブレイズ』が、こちらを捉えたメリフの1機に飛び蹴り。


 その運動量を押しつけられたメリフは、声なき声を上げつつ、加速したロケットのようにどこかへ飛んで行った。


 必死に止まろうとするも、焼け石に水。



 『シルバー・ブレイズ』は、こちらを見た後で、スラスターと手足の動きにより敵艦隊のほうを向く。


 背中のバーニアを吹かし、あっという間に、接近してきた敵との交戦へ。


 上下に激しく入れ替わりつつ、一瞬で撃ち抜く。


 爆発で光となった敵に構わず――


「さっきの白いPS!?」


 よく考えれば、さっきの太いビームは、白いPSが持っていたビームライフルだ。


 そちらは奥の艦隊と交戦しており、一撃で駆逐艦を貫通している。


 撃ち尽くしたようで、白いPSはビームライフルを捨てた。



『せ、戦艦!? 少佐、敵の旗艦と思われる戦艦クラスを発見! くそっ! 通信ができない!』


 サイズが分かりにくいはずの宇宙ですら、巨大な艦が見える。

 複数のカタパルトから、メリフが次々に発艦。


 その主砲からのビームが、ニューアースの主力艦隊のほうへ伸びていく。

 横殴りの雨のように。


 発射位置から逆算したのか、主力艦隊も一斉射撃で応戦する。

 けれど、巨大な戦艦の直前で、溶けるようにビームが蒸発。


『対ビーム兵装! ダメだ、近づいて急所を撃つしか!!』


 コウ少尉が慟哭どうこくするも、味方との合流を急ぐのみ。


 減速するだけでも、俺たちが死ぬ。



 宇宙空間で止まった白いPSが、その慣性に身を任せつつ、俺のほうを向く。


 ニューアースの人類が存亡をかけている状況で、見つめ合う。


 ――さよなら


 頭の中に響いた声は、間違いなく、アレトゥーサの中で聞いたもの。


 大人びた女子中学生のような。


 ――もう、失いたくない


 駆逐艦隊を殲滅した白いPSは、果敢にも、敵の巨大戦艦へ。


 腰の後ろから、バズーカを取り出す。


 同じぐらいの小型ロボットが向かってくるも、器用に相手と位置を入れ替え、背中を預けつつ、バズーカを向けた。

 そのまま、巨大戦艦のほうへ連射する。


 各所に着弾したことで、爆発が続く。


 慌てたメリフどもは、チリチリと途切れそうなビームソードを光らせつつ、ミサイルを撃ちまくる。


 加速した白いPSは、最小の動きで回避しつつも、巨大戦艦への接近を止めない。


 すれ違ったメリフの胴体を貫き、蹴飛ばして加速しつつ、残弾を巨大戦艦へ叩き込む。


 けれど、敵へ肉薄を続けたことで、左腕のシールドが吹き飛び、ニューアース宇宙艦隊のビームも流れ弾で当たる。


 左足を失った。


 左腕はもうない。


 背中のバーニアの半分が死んだ。


 頭部が貫かれる。


 それでも、白いPSは諦めない。

 ブリッジらしき場所にビームを撃ち込み、後部のエンジンにもありったけ。


 大爆発をしていく巨大戦艦に、ニューアースの主力艦隊は砲撃をやめた。


 力尽きたように呑みこまれていく、白いPS。



『ああ……』


 コウは、言葉にならないようだ。


 どう見ても、白いPSは俺たちを……ニューアースの人類を庇った。


『少佐……。あの機体はいったい……』


 俺たちが大爆発を眺めていれば、そちらで接近してくる機影。


『……シルバー・ブレイズです。少佐の機体が無事だったのは、幸いでした』


 けれど、合流した『シルバー・ブレイズ』は、長距離移動ユニットにつかまり、一緒に加速するだけ。


『とにかく、安全圏まで行きましょう! 下手に減速すれば、残っている敵やデブリにやられますから』



 戦闘配置が続く主力艦隊には着艦できず、俺たちは軌道上のステーションに誘導された。


 味方の射線を避けつつ、遠回りで、ようやくハッチの中へ。



『俺は、まだ戦闘配備ですから……』


 疲れ切った様子のコウは、『エイジス』を自分のハンガーへ移動させた。

 

 ここは予備のため、与圧されたハンガーには誰もいない。


 ピピピ


和真かずま! 大丈夫だった!?』


 空中に表示された画面を見れば、キャロリーヌだ。


「あ、ああ……。お前こそ、どうして――」

『とにかく、そっちへ行くね!』


 画面が閉じた。


 ふうっと息を吐いた後で、ハンガーに固定された『シルバー・ブレイズ』を見る。


「お前はどうして、勝手に――」

 バシュウッ


 いきなり前面装甲が開き、誰かが勢いよく飛び出してきた。


 向き合っていたことで、抱きとめる形に。


 柔らかい感触。


「会いたかった……」


 俺が聞いていた、女子中学生の声だ。


 顔を上げた彼女を見れば、銀色の髪と、金色の瞳を持つ少女。


 ここで、別の女子の声が混ざる。


「……その女、誰? というか、ここでナニをしているの?」


 キャロリーヌが、ハイライトをなくした目で、こちらを見ている。


 1つ問題があるとすれば、いきなり抱き着いてきた銀髪女子は全裸ということ。

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