第22話 白いPS

 PS(パワードスーツ)用のパイロットスーツを着たまま、俺たちは焦った。


「脱出するぞ、コウ少尉!」

『ハッ!』


 窒息したミイラたちがいる屋内から、走り出す。


 出入口に近いのは、俺だ。



 ゴオオオォォォッ!


 外で、PSらしき轟音。


『少佐! 危ない!!』


 次の瞬間に――


 外から、白い人型が突っ込んできた。


 俺たちがいる方向へ押し寄せる、建物の外壁。


「ぐっ!?」


 思わず両手で庇いつつ、半身になる。


 幸いにも、それらの破片は俺の手前で、遠隔のシールドバリアーにより停止。


「コウ少尉!?」

『自分は無事です! それより、前を!!』


 見れば、後ろのコウが両手で拳銃を構えている。


 その銃口を追えば――


 約2mの白いPSがいた。


 俺たちが入ってきた出入口を粉砕するように、埋め込まれている。

 ちょうど、正対する構図だ。


 豆鉄砲が、シールドバリアーを持つPSに通じるわけがない。


 誰よりも知っている俺たちは、パイロットスーツの内側で一気に汗をかく。


 震える両手で銃口を向けたまま、コウが尋ねる。


『ど、どうしますか、少佐?』


「銃を下ろせ! ホルスターに仕舞い、自分のPSを遠隔操作する準備だ」

『了解!』


 ゆっくりと銃口を下ろしたコウは、パイロットスーツのホルスターに仕舞った。


 抵抗の意志がない証明で、肘を下ろしたまま、両手を上げる。


 それを見たからか、正面で向き合っている白いPSが動き出した。

 支えを失った穴の端が崩れるも、両手を振るい、大まかに除去。


 頭部にある顔の部分で、目が光った。


 ……不思議と、攻撃する意思は感じられない。


 片膝をついた白いPSは、フリーの右腕を前へ伸ばした。


 白い騎士のようなフォルム。


 俺たちが戸惑っていたら、前面装甲が音を立てて開いた。

 内部に、搭乗するためのシートが見える。


 困惑したコウが、両腕を下ろしつつ、俺に聞く。


『し、知っていますか?』


「いや……。初めて見たぞ? それに――」


 ヒィイイイイン!


 外で、PSが出力を上げた音。


『少佐!?』

「俺は、まだ動かしていないぞ?」


 すると、乗り込める状態の白いPSが、再び稼働状態へ。


 開いていた部分を閉じて、無人のままで立ち上がる。


 心なしか苛立たしげに、後ろを向く。


 ズシュンズシュンと、数歩だけ前へ出れば――


 背部のメインスラスターを全開にした『シルバー・ブレイズ』が、ショルダーアタックを食らわせた。


 その勢いで機体をくの字に曲げた白いPSが、押し出されていく。


「ええっ……」


『しょ、少佐が、遠隔操作をしたのでは?』


 知らねーよ!


 何で、リードが外れた犬みたいに動き出す!?



 俺たちが外へ出てみれば、まっくらな居住ブロックを壊しつつ、上空のスペースまでの三次元バトルが繰り広げられていた。


 白いPSは、右手に持たせたビームライフルを撃つ。


 太いビームが走り、そのピンク色は居住ブロックの外壁まで貫いた。


 当然のように回避した『シルバー・ブレイズ』は、お返しとばかりに、対艦ミサイルを斉射。


 着弾したエリアで、凄まじい爆発音と、内部までの破壊らしき振動。


「お前らは、いったい何考えとんじゃあああああっ!?」

『少佐! とにかく、脱出を!!』


 コウにうながされ、俺たちは残った『エイジス』と、それが乗っている長距離移動ユニットのところへ。


 『エイジス』を装着するコウと、移動ユニットに体を固定する俺。


『外へ出ますよ?』

「お願いします」


 ホバーで浮かび上がり、上で戦闘を続けている2機に巻き込まれないよう、注意する。


『少佐? 脱出ルートは……』

「外壁を壊して、そこから出ましょう!」


 俺の提案により、こちらの手持ちが、静かな空間に殺到。


 外へ大きく吹き飛び、中に残っていた空気と共に、ミイラや車、壊れた看板などが吸い出されていく。


 それらにぶつからないため、移動ユニットは最大加速に……。



 ブウウゥウウウッ!


 ガトリング砲の連射音が響き、そちらを見れば、火線を回り込むように飛んでいる『シルバー・ブレイズ』の姿。


 青いビームソードを伸ばし、すれ違いざまに銃身を斬り捨てた。


 爆発するガリトング砲をとっさに放り投げた、白いPS。



 しかし、アレトゥーサの外壁から出たことで、星々が煌めく宇宙へ。


『下手に減速せず、このまま安全圏まで進み、しかるのちに味方と合流します!』

「分かりました」



 後ろで、艦砲射撃が始まった。


 PSのビームとは桁違いの破壊力が次々に巨大な艦へ当たり、破壊された装甲は四方へ飛んでいく。


 俺の『シルバー・ブレイズ』が……。


 進路希望をまた変えないと……。


 絶望感に打ちひしがれていたら、コウが叫ぶ。


『ちくしょう! こんなところに……。少佐、敵です! ステルスで近くの隕石か、アレトゥーサのどこかに潜んでいたと思われます!』


 同期したデータによれば、マシンクリーガーの駆逐艦隊。


 駆逐艦4隻に加え、搭載されたメリフ(機械生命体の略)が12機も……。


『少佐は、この移動ユニットで味方と合流を! 自分は足止めをします!』


「このまま加速すれば――」

『メリフにやられます! せめて……いえ、何でもありません!』


 せめて、俺が『シルバー・ブレイズ』に乗っていれば。

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