眼鏡娘と魔王の奇妙な同棲生活

@kiyurin

第1話

「工藤さーん、これお願いー。20部ね」


美琴みことに資料を手渡して来たのは、同期の白刃茜。

美琴と違い仕事が出来る彼女は、もう既に上司に自分の仕事の手伝いを任されている。

そしてそこで必要な雑用は、自分でする事なく全部美琴に振ってくる。


…絶対、嫌がらせだよ…


コピー機で10枚1組の資料を20枚ずつ、コピーしていく。

それを束ねてホッチキスで留めて、彼女に渡す。

ただそれだけの仕事…



「あー、ごめんね工藤さん」


茜が美琴の後ろを通る。

背中が痛い。茜の肘がぶつかった様だ。


「早くして?遅いと私が怒られるんだから」


振り向くと通り過ぎ際にこちらを見て嫌な笑みを浮かべる茜。

それを見て、今や何も思わなくなってしまった。




「はあーーー……」


会社から出ると、漸く体が軽くなる気がする。

それと同時に、ささくれ立った心は一気に痛みを増す。

頼りにされない、相手にされない、存在すらあるのかないのか分からない、そんな自分を思い知らされるこの場所が、今の美琴の一番長い時間を過ごす場所である。

思考もままならない。

早く帰って、撮り貯めたアニメ観て、癒されなければ死んでしまいそうだ…



家までは徒歩と電車で30分ほど。

最寄り駅までフラフラと、重い足を引きずる。



ドンッ…!


突然右肩に衝撃。

急ぐサラリーマン風の男性が、美琴の肩にぶつかり去っていく。

こちらに気付いた風もなく。

美琴はと言えば、勢いでもつれた足がアスファルトを捉えることなく、必要以上に横へ吹っ飛ばされて暗い路地裏へと倒れ込んだ。



「いっ……たぁっ……!」


薄暗く人通りのない、ビルとビルの間の細い路地。

そこへ倒れこむと、一気に悲しさが襲って来た。


「なんで…よぉっ…」


じわじわと涙が溢れて来て視界が滲む。

暗い路地のせいでほとんど暗闇の様に見えた。



「お嬢さん、お嬢さん」


しゃがれた声が聞こえた。

顔を上げるが姿が見えない。


こっちじゃて…。その言葉が聞こえた方を、涙を拭って見てみると、積まれた段ボール箱の向こうから、皺々の手がひらひらと手招きをしていた。



引き寄せられる様に美琴は、その手の主の元へとずりずりと体を這わせて近づいて行った。

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