第36話 味方は鶏だけ?
魔物に操られた近衛騎士や侍女に追い立てられ、ネーヴェは自室に戻った。
自室の扉は外から施錠され、完全に閉じ込められた。
「参ったわね……」
『何か困ってるのか?』
足元に雄鶏がやってきて、コケコッコと鳴く。
味方は鶏だけだ。
「いっそ、あなた巨大化して、私を乗せて城を脱出できない?」
『無茶言うなよ』
モップと名付けられた雄鶏は、意外にまともな事を言う。
役には立たないが、モップと会話していると気が紛れた。
「ラニエリ様が来たら、剣で殴ってやろうかしら」
欲望丸出しの男に襲われる可能性を想像し、ネーヴェは身震いする。
『俺っちが守ってやるよ、姫さん。ニワトリキック!』
「いえ、戦わずに済むに越したことはありませんわ」
モップを戦わせると食材にされかねない。
取り急ぎ、ネーヴェはバリケード構築に着手した。
扉の内側にテーブルや棚を移動して、自分から立てこもりの体勢に入る。
幾重にも家具の防壁を築いていると、扉の外から声がした。
「失礼しますよ、陛下……扉が開かないっ」
ラニエリの声だ。
扉を押し引きする気配がした。やっと、異変に気付いたらしい。魔物に操られていない状態なら、すぐ気付いただろうが、今は皆、催眠状態でぼんやりしているようだ。
「扉を開くこと、まかりなりません」
ネーヴェは毅然と声を上げた。
「無断で王の居室に足を踏み入れようとするなど、不届き千万。その不敬は万死に値しますわ」
「礼を失したことは詫びましょう。しかし陛下、私なしで国を御せるとお思いで? あなた一人に出来ることは限りがあるでしょう。おとなしく扉を開け、私を迎え入れなさい」
子供のように閉じこもるつもりですか、とラニエリは嘲笑する。
ネーヴェは挑発に乗らず、冷静に答えた。
「ラニエリ、あなたこそ、私なしで国を御せると思い上がっているようですね。顔を洗って出直しなさい!」
「なんだと」
「ですが、そうですね。私不在で、滞りなく政務が行えることを証明できれば、あなたを迎え入れるかもしれませんわ」
売り言葉に、買い言葉。
扉の向こう側で、ラニエリが悔しそうに歯ぎしりした気配がする。
「……その言葉、忘れないで下さい。我慢比べといきましょうか」
負けず嫌いで仕事熱心なラニエリは、すっかりやる気になったようだ。扉の前から遠ざかる気配がする。
ネーヴェは、ひとまず苦難を乗り越えたと、胸を撫で下ろす。
自分の貞操を守り、ついでに国も守った。ラニエリが政務に熱中していれば、ひとまずフォレスタは大丈夫だ。
「これから、どうしましょうか」
魔物が人を喰ったり被害を出さなければ良いのだが、と心配する。もっとも、シエロが何の策も打たずに出掛けたとは考えにくい。
そもそも以前の虫害の一件で、シエロが天使の力で魔術が人を害さないような仕組みを作っていると聞いたばかりだ。人を襲った魔物は、天使の怒りに触れることになる。それに、わざわざ王子に化けて乗り込んできた魔物が、即座に正体を表して人を殺すとも考えにくい。少なくとも王子の姿を利用できる間は、人間の振りをするだろう。
時間的な猶予はあると思われる。
最善の解決策は、その猶予期間のうちに本物の王子を見つけ出し、何事もなかったように偽物とすり替えることだ。
「陛下~~、開けてください~」
ベランダの方から、声がする。
その声に心当たりがあったネーヴェは、急いでベランダを開け放った。
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