Side: エミリオ

 ミヤビも、ネーヴェも、見つからなかった。

 街中を探したエミリオは一旦サボル家に戻り、自分の護衛の騎士をかき集め、外に出た。


「殿下、どこへ?!」

「サボル侯爵に伝えておけ。そなたは約束を破り、ネーヴェを連れて来なかったどころか、屋敷の警備をおろそかにし、我が聖女を失踪させた。もはや信頼に値せぬ。私が王都に戻った暁には、相応の処罰を覚悟せよ、と」

 

 使用人は真っ青になっているが、エミリオは構わず強引に出立した。


「ラニエリ、この辺りに、使えそうな貴族はいるか?」

「……サボル侯爵と仲が悪いのは、チェリテ伯爵でしょうか」

 

 宰相ラニエリの助言に従い、エミリオはチェリテ伯爵を訪問することにした。

 使いも先触れも出さずに、直接の訪問だ。

 収穫祭サグラの最中だったチェリテ伯爵は、突然の王子訪問に心臓が飛び出るくらい仰天して屋敷に戻り、エミリオをもてなす。


「で、殿下。当家へのご訪問、とても光栄に存じます」

「チェリテ伯爵、あなたの行動によっては、さらなる栄誉を与えよう」

 

 エミリオは、彼に命令を下す。


「今すぐ兵を動かし、クラヴィーアへ進軍するのだ!」

「なんと?!」

「私の元婚約者ネーヴェが反乱を起こそうとしている。よってクラヴィーア伯爵を征伐する必要がある。サボル侯爵にネーヴェの引き渡しを命じたが、奴は私の命に従わなかった。ネーヴェを庇っているとみなし、同罪とする!」

「で、ではリグリス州は……」

「あなたの活躍次第では、サボル侯爵から取り上げた領地を与えることも出来るだろう」

「おお!」

 

 餌を目の前にちらつかせると、命令に戸惑っていたチェリテ伯爵は、急に乗り気になった。


「殿下に、私の忠誠をお見せしましょうぞ」

「期待している」

 

 チェリテ伯爵は、侯爵と違い、言うことを聞きそうだ。

 今度こそ、ネーヴェに罰を与えられると、エミリオは思った。

 

「……では、私は聖女様の探索をしながら、先に王都に帰ります」

「頼んだぞ、ラニエリ」

 

 宰相ラニエリは、仕事もあるからと、王都に戻りたがっていた。

 ミヤビの行方も気になるが、エミリオがここで王子の旗を掲げて進軍すれば目立つので、彼女の方から戻って来てくれる可能性も高い。

 聖女ミヤビが戻り、悪女ネーヴェを捕らえれば、災厄の魔物は去り、全て丸く収まる。そうに違いない、と彼は自分に言い聞かせる。王子とは言え、国王に無断で兵を挙げる事は叱責されかねない。しかし、エミリオはそれらの懸念より、目の前の分かりやすい標的を追うことに腐心した。

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