第24話 汚れた戦闘服

 二人の部屋は俺の寝室から離れた位置に二つ並んで配置することにした。

 部屋の大きさはそこそこあって、内装は個人の希望を尊重するとして。


「鍵はどうしようか」


 ドアチェーンのようなものでいいか?


「鍵……いります?」

「え?」

「だって、ね? 雲雀ちゃん。ハジメさんがその気になったら」

「まぁ、たしかに鍵なんて意味はないわね」

「やめろやめろ。なんてことを言うんだ」


 配信中じゃなくて本当によかった。

 リスナーに何を言われていたことか。


「あのな?」

「わかっています。ハジメさんがそんな人じゃないってことは」

「そうじゃなかったらハジメさんを頼って来たりしませんよー」

「頼りにしてくれるのは嬉しいけどだな。とにかく! 鍵はつけるからな。寝る前は戸締まりをきちんとすること!」

「はーい」

「魔物や他の冒険者が忍び込んでくるかもしれませんからね」


 思いの外、二人からの信用を得ていることに驚きつつ、雲雀と伊那の個人部屋を作成する。


「はいはーい! 私、ベッドはここがいいでーす! 窓はこっちで、椅子とテーブルはそっち! お願いしまーす!」

「はいよ」

「私は伊那ほどこだわりはありませんけど……あ、クローゼットはここに置いて下さい。あと、もう少し大きくして貰えると嬉しいです」

「了解」


 二人の意見を聞きながら家具類を配置。

 如何せん物が少ないので個性は出難いが、なんとなくどちらの部屋か推測がつく形にはなったかな。


「あとはベッドシーツか」

「シーツがあるんですか?」

「あぁ、バロメッツの羊から毛皮を取ったんだ。有り余ってるからちょうどよかったよ」


 異空間からバロメッツの羊毛を取り出す。

 もちろん洗浄済みのもので、色合いは綺麗な黄金色。それに魔法を掛けて作成するシーツはまるで、金箔を貼り付けたようになる。


「わぁ! ゴージャスになった! お金持ちになったみたい!」

「はるか昔の何処かの国の贅沢な貴族ならやったことがあるかもね」

「私、貴族になっちゃった!」

「なってないわよ」

「すべすべで気持ちー!」


 最後にきちんと扉にドアチェーンを取り付けてとりあえずの完成とする。

 日が経てば不満点や改善点が見付かるだろう。細かい修正やクオリティーアップは追々ということで。


「さて、良い子は寝る時間だ。明日も早いぞ」

「おやすみなさーい」

「おやすみなさい。ハジメさん」

「おやすみ」


 それぞれの個室に戻り、ベッドに飛び込むと枕元のランタンを消す。

 真っ暗闇の中にいると、色々と考えてしまうのは誰にでもあることだ。

 よくよく考えてみれば可笑しな話だ。

 まだ未成年の新人二人と一つ屋根の下、しかもダンジョンで暮らすことになるなんて。

 状況が状況でなきゃ、こんなことには生涯ならなかっただろうな。

 未だに俺の主義は曲げるつもりはない。

 二人を助けるために多少の妥協はしたけど、超えちゃならない一線は守っている。

 俺はもう二度と人ために武器は作らない。


§


「流石に汚れてきたな、戦闘服」


 冒険者足るもの、不測の事態に備えて予備の下着や戦闘服は異空間に入れておくものだ。

 とはいえ、汚れるものは汚れるもの。

 洗剤もなく湖で洗濯板を駆使するだけでは落ちるものも落ちない。

 まだしばらくは予備でなんとか凌げるけど、この血や泥で汚れた戦闘服を早いところどうにかしないと。

 もはや湖に浸けても洗濯板に擦り付けてもどうにもならない。

 不衛生は病気の元だ。最悪、命に関わることなる。


「いっそ作るか?」


 バロメッツの羊毛はまだ余ってる。

 その場合、金ピカの戦闘服になるけど。


「趣味が悪いな」


 それにかなり目立つ。

 魔物の注目を引くような戦闘服はちょっとな。配信の一発ネタとしてはアリかも知れないけども。


「ハジメさん。朝ご飯のことなんですが――洗濯中でしたか」

「あぁ。でも、もう終わったよ」

「終わった……」


 一切汚れが落ちていなさそうな戦闘服をちらりと見て、雲雀は事情を察したように目を細くした。


「落ちないですよね、汚れ」

「本当にな。もう気休めくらいにしかならないけど、一応な。雲雀は大丈夫か?」

「実は私も伊那も清潔な着替えがないようなもので」

「不味いな。どうするか」


 折角、露天風呂に入って体を綺麗にしても、その後に着る服が汚れているんじゃ本末転倒も良いところだ。

 黄金色のシーツもくすんでしまう。


「最悪、俺が作るって手もあるが……」

「なになに? なんの話ですか?」


 伊那も起きてきた。


「着替えの話」

「あー……たしかに困ってますよねー。ハジメさんが作ってくれるんですか?」

「金ピカの奴でよければ」

「うーん、金ピカかぁ……」


 雲雀と伊那は顔を見合わせて苦い顔をした。

 やっぱり嫌か。俺も嫌だけど。


「最悪、ショーツだけなら……」

「俺に女性用下着を作れと」

「あれ? 見たことないんですか?」

「あるよ? あるけどね? デザインがわからないからとか、そんな理由じゃなくてだな」

「あるんだ……」

「雲雀?」


 微妙な空気が俺たちの間を流れていく。


「……よし、わかった」

「作ってくれるんですか?」

「そうじゃなくて」


 必要になれば作るけども。


「洗濯機を作ろう」

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