第22話 雪と冷蔵庫

 クリオ・ガーゴイルとの戦闘は予定になかったことだが、期せずして大量の氷晶石が手に入った。

 これだけあれば大規模な氷室が作れるし、ファイア・ドレイクの肉も残ら冷凍保存できるだろう。

 という訳で帰宅して早々に。


「まずは冷蔵庫からだな」

「あれ? 氷室って言ってませんでしたっけ?」

「そのつもりだったけど、氷晶石が大量に手に入ったからな。キッチンに冷蔵庫が一つあればなにかと便利だろうと思って」

「たしかに食事のたびに氷室を行き来するのは少し面倒ですね」

「それに外気が入ればそれだけ内部の温度が上がる。氷晶石も解けない訳じゃないし、扉の開け閉めは最小限に留めたいんだ」

「なるほどー」


 氷室の閉め忘れには今後よく注意しないと。


「用意するのは氷晶石は当然として、あとは石材、木材、鉄、そしてスライムだな」

『出たなスライム』

『なんに使うつもりだよ』

「ゴムパッキンの変わりだよ。隙間から冷気が漏れないように」

『それスライムが凍らない?』

「平気だろ。スライムって割とどこのエリアにもいるし。雪原エリアにもいるぞ」


 火山エリアにも、砂漠エリアにも、海原エリアにも、どんな環境にも適応して生活圏を広げている。

 冷気にもある程度耐性があって、漏れ出る冷気を堰き止めるくらいでは凍りはしない。


「ま、作ってみればはっきりするさ」


 異空間を開いてこれから冷蔵庫に生まれ変わる材料を取り出す。


「まずは木材で大枠を組むぞ。デカいほうがいいよな」

「でも、スペースが足りなくなるかも知れませんよ」

「なーに、なければ拡張すればいいさ」

「ハジメさんの魔法って本当に便利ですよねー」


 とりあえず木材に魔法を掛けて冷蔵庫の外観を組み立ててみる。

 こったデザインにはせず、よくあるシンプルな長方形だ。


『タンスじゃん』

『タンスかな?』

『ハジメちゃん、そこはキッチンだよ?』

「やめろ、タンスなもんかよ。全然違うだろ!」


 たしかに遠巻きに見ればダンスに見えなくもない、かも知れない。だが、共通点はものを仕舞っておくものだという、その一点だけ。

 用途も機能もまったく別の代物だ。


「ま、まぁまぁ」

「それで、それで? このタン――冷蔵庫!」

「伊那?」

「冷蔵庫! をどうするんですか?」

「なんか勢いで誤魔化された気がするけど」


 まぁ、いいか。


「内側の四面に石材と氷晶石の層を貼るんだ。層の厚みを調節すれば冷蔵庫にも冷凍庫にも分けられるって仕組み」


 解説をしつつ実演して見せる。

 岩石の層が一段目、氷晶石の層が二段目。

 四面を貼り終えると内部が蒼で満たされた。

 これが解けて岩石の色が見え始めたら貼替え時期だ。


「へぇー! そうなんだ! 私、この中にどーんと氷晶石を置くものだと思ってました!」

「そっちのほうが手間が掛からなくていいけど、スペースを圧迫するからな」

「もう冷気が。これなら普通の冷蔵庫と大差ありませんね。凄いです、ハジメさん」

「ありがと。よし、じゃあ仕上げていくか」


 少し前におろし金にした籠手のあまりに魔法を掛けて蝶番ちょうつがいを作成する。

 それらで扉を接続し、スライムのゴムパッキンを施せば完成だ。

 我が家に冷蔵庫がやってきた。


「完璧。早速、食い物を入れておこう」


 バロメッツの羊肉、ファイア・ドレイクの蜥蜴肉。それから常温では傷みやすい果物類、などなど。

 出来たばかりの冷蔵庫があっという間に定員オーバーになってしまった。


「これでよしっと。あとは氷室のほうだな。ちゃちゃっとやっちまおう」


 小屋に隣接させる形で氷室を作成し、冷蔵庫と同様に四面に岩石と氷晶石の層を貼る。

 要するに規模の大きな冷凍庫だ。


「こうして見ると綺麗ですね、氷晶石」

「雲雀ちゃんのほうが綺麗だよ!」

「もう、伊那ったら」

『イチャイチャしやがって』

『間に挟まりてぇー』

『殺す』

『死刑』

『今そっちに行くから待ってろ』


 なんかコメント欄が殺伐としてきたな。


「そうだ。二人にプレゼントがあるんだ」

「えー! なになに? なんですか!?」

「大したもんじゃないけどな」


 と、言いつつ異空間を開く。

 そこから取り出すのは、大量の白い雪。

 雪原エリアで異空間を開くたびに舞い込んで来たものが積もりに積もったものだ。

 いつもより長めに異空間を開いていたのは二人には内緒にしておこう。


「雪だるま、作りかけで終わってただろ? だから。ここなら顔の材料に困らないし、枝で手も作れると思ってさ」

「雪……実は少し心残りだったんです、完成させられなかったこと。嬉しい」

「素敵なプレゼントですよ! 雲雀ちゃん、早速作ろっ! 雪だるま!」

「えぇ!」


 二人は幼い子供みたいにはしゃいで全身を白く染め上げる。降る雪がないのは少し寂しいけど、喜んでくれたようで何よりだ。


『あの二人な? わしの孫じゃ』

『おじいちゃん独身でしょ? あれはうちの孫だよ』

『可哀想に、ボケてるんだわ。あの二人は私の子』

「見知らぬご家族がワラワラ湧いてきてるなぁ」


 その後、二人は趣向を凝らした特製の雪だるまを完成させる。

 それは氷室の守護神として長らく鎮座することになり、用事ができて訪ねるたびに目が合うようになるのだった。



――――――――――


 

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