第20話 氷晶石を探して
「これって
「正解。この雪に含まれる魔力が凝固したもんだ。魔石の一種だな」
「じゃあこれで冷蔵庫を作るんですね」
「そういうこと。正確には冷蔵庫じゃなくて
氷晶石は常に冷気を発している。これを一室に置けば内部温度が下がり、冷蔵庫と同じ機能を持たせることができる。
これで大量に余っている肉を、限度はあるが腐らせずに済むはず。
『氷室か、いいな原始的で』
『昔ながらって感じ』
『箱作って氷晶石置いとくだけでいいってのは簡単でいいな』
『真似したら電気代浮く?』
「やめとけ」
俺たちはダンジョンにないから作っているだけで、冷蔵庫があて使えるのならそっちのほうが断然いい。あくまで代用品であって、不自由のない地上ではおすすめしない。
場所もとることだしな。
「まず一つ目だ。この辺りにまだあるはず。手分けして探そう」
集められれば集められるほど、大きな氷室が作れる。
保存できる食料は多いに越したことはない。
「わかりました」
「頑張りまーす」
雪に埋もれがちな土塊のゴーレムたちに引き続き、周囲の警戒を任せて氷晶石を探しにかかる。
頼りになるのは足の感覚だ。踏み締めた先に異物があれば、それが氷晶石で間違いない。
地味な作業だけど、スコップで積雪を掘り返すよりよほどいい。
「ねぇねぇ、雲雀ちゃん。勝負しようよ。どっちが多く見付けられるか!」
「えぇ、いいわよ。でも、伊那が躓いて見付けた分はカウントしちゃダメよ」
「え、なんでわかったの!?」
「伊那の考えそうなことなんて簡単にわかるのよ、私には」
「むー、いいもん。これからいーぱい見付けるんだから」
「負けない」
「私だって!」
二人の様子を微笑ましく思いつつ足を動かしていると、靴底に異物を感じ取る。
雪原に空けた穴を広げるように掘り返すと、底に蒼色を発見した。氷晶石の色だ。
「よし、これで二個目」
「三個目みーっけ!」
「残念、それは四個目よ。三個目はこっち」
「なにー!?」
地道な単純作業でも二人に掛かれば笑顔が伴う。無言で黙々とやるより、こちらのほうが配信映えする。
たぶん二人とも撮影ドローンの前だからと、意図してのことじゃない。わざとらしさが少しもない自然な振る舞いが出来ている。
天真爛漫な伊那はもちろん、雲雀も初めてで緊張していたけど、今はその様子はない。
『楽しそう』
『こういうの見てるの好きなんだわ』
『もうずっと雪遊びしてようぜ』
案外、二人には配信者としての才能があるのかもな。
神樹の琥珀を使って一気に積雪を捲り上げる、なんて強引な手段に出なくてよかった。
疲れたらそうするかも知れないけど。
「このペースでいけば大きめの氷室が――」
ふと、風が止まる。
殴りつけるような雪は勢いを失い、白に埋め尽くされていた視界が開く。
豪雪地帯の気まぐれだ。
遠くまで見渡せるようになっても景色が白いことに変わりはないが、けれどその中の異なる色については嫌でも目に付くようになる。
その色が示すのは他でもない人間だった。
「さっきの冒険者か? でも、様子が……」
その誰かは慌てた様子でこちらに駆けて来ている。
そう彼だけだ。彼一人だけが、こちらに向かって来ていた。
ほかの冒険者はどこに? はぐれたのか?
状況を見て可能性を脳内に並べていると、彼の背後で雪が煙幕のように吹き上がる。
彼ではない何者かによるもの。そしてその何者かは派手に散った雪の中から現れた。
凍て付く体は冷気を放ち、その造形は精巧に整えられ、命を吹き込まれてる。
まさに動く氷像。
「クリオ・ガーゴイル!」
それが二体、冒険者を追っている。
その光景を見て、どうしても行き着かざるを得ない可能性があった。
パーティーの壊滅。
生き残りは彼ただ一人で、残りの冒険者はすでにクリオ・ガーゴイルによって命を散らしているかも知れない。全滅の次に最悪な結末だ。
「どうする……」
こちらには新人冒険者が二人いる。
当然のことながら見ず知らずの冒険者より優先順位が高い。
二人を危険に晒すくらいなら俺一人で助けに向かうべきだろう。
それが例え――
「助けに行きましょう」
「雲雀」
「ほらほら、早くしないと」
「……いいんだな?」
二人は頷いて返した。
「そうか、わかった」
まだ遠くにいて、逃げている冒険者が何者なのかはっきり見えない。
もしかしたら、あの男の可能性もある。
その場合のことを考えて、二人にはここで待機してもらうつもりだったけど、二人はそれを承知で助けにいくと言った。
まったく、過保護は良くないな。
「俺が片方をやる。二人はもう片方だ。出来るか?」
「もちろんです。鍛錬の成果を見せます」
「私と雲雀ちゃんでぱぱっとやっつけちゃいますよ!」
「頼もしいな。じゃあ、行こう!」
積雪を蹴散らして駆け出し、まだ誰ともわからない彼の元へ急ぐ。
もう彼が誰であろうと助けるしかない。
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