第2話 国家組織B
涼や裕太との時間を削ってまで力を追い求めたのに、俺は守れなかった……それも、一番大切なものを。
「ホワッツ!?」
俺は体中汗だくに成りながら目を覚ました。
でもそこは、怪物と対峙した場所では無く、自宅でも無い。
俺が組織に協力するきっかけとなった場所だ。
「おう、おはよう」
「……………!」
動揺から、思うように声を出せないでいる俺の目に映ったのは
俺達の担任教師『だった』者である。
ソース顔のナイスガイであり、運動神経の塊と言っても過言ではない。
彼は数ヶ月前、訃報と共に学校から姿を消していたが、今はある国家組織に身を置いている。
「今回は災難だったな。でもまさか、お前があの雑魚一匹にここまで苦戦するとはな」
「いや、雑魚なんかじゃ……! そうだ、リョーはどうなった!? 稲村リョーは! 腹に大穴開けてあそこに倒れていたはずだぜホワイ!」
「無事だぞ」
「やっぱり、あの怪我じゃ…………って、ワッツ? 今なんて?」
「ほら、隣見てみ?」
予想とは真逆の回答に俺は目を丸くした。
武藤に言われた通り、隣のベッドとを隔てるカーテンをばっと開いた。
すると、そこには穏やかな顔で寝息を立てる友がいた。
「リョー……マイ……ゴッド……」
リョーには悪いが、正直あの状態からの救命は絶望的だと思った。
今は嬉しさの反面、驚きが勝っている。
「そういや、さっきお前が話していた涼の腹に大穴……ってあれどういう意味だ?」
「そりゃ、言葉通りの意味だぜティーチャー」
「言葉通りだと? 稲村は外傷すら見当たらなかったぞ?」
「ホワイ!?」
どういうことだ……?
涼は確かに致命傷だったはず。それは俺がこの目で見た、確実にだ。
「連絡が付かなくなったお前を心配して神道と現場に向かってみれば……どうしたもんかね、電値不足で倒れているやつはいるわ、見知った顔は倒れているわで。聞きたいことばっかだぜホントに」
武藤だけでなく、神道さんまで?
あの人が来るってことはやはり手違いか何かがあったんじゃ……。
「納得いかないって顔してるな。……まあいい、今度はこっちの質問に答えて貰おうか」
「あ、ああ、オーケィだ」
「さっきは有耶無耶になってしまったが、昨日の任務で何があった? まさか初級なんかに手こずったなんて言わないよな?」
「ち、違う! アイツは初級なんかじゃない……中級だぜストロング! それも普通とは違う…………何処がとは言えないが、そんな気がしたんだ!」
昨日の怪物について必死に語る俺に、武藤から『戯れ言だ』とでも言いたげな目を向けられる。
確かに俺だってこんな話をされたら信じない。
何故なら、俺達裏世界に生きる人々に向けて本部から課せられる任務には、誤報など絶対にあり得ないことだからだ。
――――千葉県舞浜市の夢の国跡地にある、民間電力会社(通称ppc)。ここが俺達の通う本部であり、裏の呼び名をB『ブロント』と言う。
ここで働く者達は皆、"
ちなみに俺が入社するきっかけとなったのは、このエヴィルとの出会い。
エヴィルは普通の人には見えないらしいが、俺は何故か見えてしまった。
そこで俺は標的にされ、無意識に
たまたま現場に居合わせ、ここの部屋へと運び込んだのが現在進行形で俺に疑いの目を向けている武藤。
死んだはずの担任が実は生きていたということに初めは驚きを隠せなかったが、組織についての話を聞かされる内に自らの使命に気付き、いつしか俺もBへと加入したんだ。
「…………そんな突飛なこと言われても、俺は信じられねえよ。まあ、お前のその慌てっぷりから嘘を言っているとも思えないけどな」
「だから本当――――」
「本当、だと思うよ」
俺の声に被さるように声がした。
その声は他でもない、俺が巻き込んでしまった親友の物だった。
「リョー!」
「お、やっと目覚めたか。久しぶりだな」
「ニック。あと、そちらは……?」
「おいおい、忘れちまったのかよー。まあ、あれから結構時間が経ってることだし仕方ないか」
武藤はばつの悪そうな顔をし、続ける。
「俺はお前らの元担任、武藤卓だ」
「――――え。武藤先生!? 確か、死んだはずじゃ!? というかここはどこだ? …………よく考えたらオレも死んだはずじゃ無かったのか!?」
涼は一瞬目を丸くすると、慌てたように幾つもの質問を投げ掛けた。
世間的には死んだことになっている元担任が、今こうして目の前で生きている。確かに、驚くのも無理はないだろう。
「ま、まあ落ち着けよ。詳しいことは言えねえが、俺は一応生きている。これは皆には内緒だかんな?」
「は、はい」
「よし! 二人とも家まで送ってやるから、さっさと支度しろよー、あと稲村はここで見たこと聞いたことは全部忘れろ! いいな?」
「ちょっと待ってくれよストップ」
「ん? どうしたニック」
「リョーを……
「は?」
武藤は俺のあまりに突飛な提案に、口を開けたまま固まった。
確かにこんな提案、自分でも馬鹿げていると思っている。
リョーはエヴィルとの戦闘によって致命傷を負い、体だけで無く心にも大きな傷を負ったはずだろう。
でも、俺はリョーの超能力に救われた。あの場にリョーが居なければ、超能力が無ければ、今頃俺は死んでいたかもしれない。
「俺は別に構わないが…………稲村はどうなんだ? 一度怪物――――いやエヴィルに殺されかけた訳だし、まだ心の傷が癒えてないんじゃ」
「いや……大丈夫です。是非入れてください!」
「いいのか? 無理にとは言わないぞ?」
「オレ、確かに死にかけはしたし、痛みも恐怖も味わいました。だから、この思いを誰にも味わわせたくない。しかも怪物と戦う正義のヒーローなんて、最高じゃないですか!」
「そ、そうか。それじゃあ上に伝えておくが……一つだけ条件がある。これはニック、お前にも当てはまることだが…………」
俺にも当てはまるだって? 確か、組織に入る条件はエヴィルを視認できることのみだったはずだが。
「今通ってる学校を退学し、Bの運営する土地に移住して貰う」
「「!」」
それは、澄空との完全な決別を意味していた。
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