アタック・ザ・キラービースト

ちびまるフォイ

80億人 vs 1000000億匹

未曾有のウイルスがすべての動物に広まったことは誰にも知られていなかった。


「さあ、ポチ。ご飯だぞぉ~~」


エサ皿をそっと差し出した主人だったが、

ポチの視線はあきらかに積まれたドッグフードなんかみちゃいなかった。


「ぽ、ポチ……?」


「ぐるるるる」


「う、うわあああ!!」


ポチは美味しそうな二足歩行のご飯めがけて猛突進。

あっという間に骨だけにされてしまった。


世界各所で起きている獣害が報道されたのはそれからしばらく経ってからだった。


『緊急ニュースです!

 すべての動物が人間を襲い始めています!!

 ペットを飼っている人はすぐに逃げてください!!』


飼い犬が、飼い猫が、オウムが、亀が。

あらゆる食事を拒否して、人間を食べようと襲い始めた。


「うちのチョコちゃんはそんなことしないわ!」


「ニ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛!!」


「きゃーー! 助けてーー!!」


動物たちはこれまでの自然の怒りをぶつけるかのように、

地球の支配者であった人間へ一斉に牙を向き始めた。


温厚なパンダですら人間を襲い始め、

楽しい動物園は一転して生物兵器貯蔵庫へと変わってしまう。


さらに郊外ではもっと危険な状態になっていた。


農家の人たちは必死に小屋の鍵を抑えている。


「だ、ダメだ!! これ以上はもう持たない!!」


「あなた頑張って!! これを外に出したら終わりよ!」


「お前だけでも逃げろ! 外に車が……」


いいかけたところで小屋のかんぬきが破壊された。

ニワトリたちは外に出るや、扉を押さえていた農家の夫婦をついばみ尽くした。


エサにありつけなかったニワトリたちは大挙して街へと降りていった。


「きゃあーー!」

「来るなぁーー!!」


腹ペコの鳥たちは逃げ惑う人間たちを冷酷に食べ尽くし、

賑わっていた街は数分でゴーストタウンへと化した。


そしてそれはこの街だけではない。

家畜の暴走は各所で発生し、牛や馬やヤギが人間を食い散らかしていった。


地球上にいる生物比でいうと、人間よりも動物の数のほうが圧倒的に多い。

その動物たちが人間しか食べられないとなると、もはや人間は手も足も出ない。


人類の1/3が命を散らしたとき、ついに世界のトップは決断した。


「このままでは人間は全滅してしまう。

 すべての動物を根絶やしにしなければ!」


「正気ですか!? 動物を殺し尽くすなんてしたら、

 生態系にいったいどんな影響が出るか……」


「そうですよ! それよりも動物を正気戻すワクチンの開発を……」



「バカを言え! すでに人類は多くの命を失っているんだぞ!!

 もう一刻の猶予もない!! 戦車を出せ!」



トップの一言で動物浄化作戦がついに始まった。


街には火炎放射器をもった軍人が押し寄せてすべての動物を焼き尽くす。

山には戦車が入り、木をなぎ倒しながら動物を踏み尽くした。


「やめて! うちのピーちゃんは大人しい子なの! 人間なんて襲わなない!!」


「今はおとなしてくも、のちのちの脅威になる! 死ね!」


こっそり隠していた動物も軒並み引きずり出されては死滅させられた。



徹底した浄化作戦により、地球はついに人間だけとなる。


名実ともに人間がこの地球の支配者となった。



「やったぞ! ついにすべての動物を根絶やしにした!」


「これでもう安心ですね!」


「これから野菜しか食べられなくなるのは残念だがな。はっはっは」


世界のトップは嬉しそうに昼食を取ることにした。

テーブルに並べられた野菜をかじったときだった。


「うわ!? なんだこれ! とても食べられない!!」


まずいとか、苦手だとかいう次元ではなかった。

生物反射的に毒を吐き出す速度で野菜を拒否してしまう。


それはテーブルについたすべての首脳陣も同じ反応だった。


そこへ慌てた科学者が部屋に入ってきた。


「た、大変です! 動物たちを調べててわかったんです!」


「なんだ、今は食事中だぞ!」


「緊急なんです! すべての動物は人間しか食べられなくなる

 そういうウイルスだということがわかったんです!」


「……それは前からわかっていただろう。なにを今さら」


「よく聞いてください! すべての動物なんですよ!!」


科学者は繰り返し叫んだ。

世界のトップはぐるりと食卓を囲う人間を見回した。




「ところで……君、なんだか美味しそうな首の肉をしているじゃないか」

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