第75階層
結局の所、女王は帝国の要請を飲む事にしたと言う。
帝国はこれから改めて国内で折衝が始まる。
その為、すぐにとは行かないが、クレスフィズ皇子がアクレイシス女王へ婿入りする事が決まった。
これを逆ハーと呼んで良い物か、非常に悩む所だ。
性転換した元男の女性が、複数の男性と関係を持つ。
前世の薄い本なら良くある事かもしれないが、現実だと非常にカオスでござる。
本人だって望んでいないだろうしなあ……
仕方ない、オレの方はそのうち、ひっそりとフェードアウトする事にしようか。
しかしほんと、帝国は何を考えて第一皇子を婿に出すんだ?
何れ、二人に子供が出来れば、その子を両方の国の王として徐々にカーラード王国を取り込んで行くつもりかな?
それにしても気の長い話だし、これだけ離れていれば一つにするメリットは少ない。
それならば、前世のカナダやオースラリアの様にイギリス王が君主だが政治は別々、みたいにするのが良いかも知れない。
というかあの二人、子供を作れるのだろうか?
アクレイシス女王次第だなあ。
彼女も曲がりながらも王族教育を施されている、個人の感情よりも優先されるべきが何かは理解している。はずだ。
…………理解した上で無視する可能性も無きにしも非ず。って言うのがなんとも。
いや、それよりも先に帝国内部でも問題にならないか?
第一皇子と言えば、皇帝に次ぐ権力者と言っても良い存在。
それを他国の女王へ嫁がせるなど、実質、隷属する様なものだと反対意見が出そうな気がするが。
それとも、うちの女王様の様に、皇位継承に問題がある人物だったと言うのなら話は別だが。
もしかしたらあの二人、そこら辺の気が合って惹かれ合っていたりするのだろうか?
と言う様な事を悶々と考えていたある日、ようやく国内の指針が定まったと言って皇帝陛下に御呼ばれされる。
そしてオレはそこで、衝撃の映像を目にする事になる。
「クレスフィズ皇子の皇位継承を取り消し、本人も正式にそれを了承した」
「そこで、女王陛下との婚姻に障害が無くなった為、スケジュールを立てたいと思います」
「……イース卿? 返事がありませんがお話を聞かれていますか?」
その映像に気を取られて、あまり話題が頭に入っていこない。
いやいや、えっ!? あれからまだ一月ぐらいしか経っていないよな?
いや、なんで? 皆様、なんでそんなに――――トドの様な体型になってんの?
ニコニコモードの皇帝陛下なんて、まるで前世の大黒様の様に見える。
「その前に一つ……お話を伺いたいのですが……」
「何でしょうか?」
「少々、その……食べ過ぎでは…………ございませんでしょうか?」
オレがそう言うと、帝国貴族の皆様、一様に目を反らされるでござる。
いや絶対、食い過ぎだって!
野菜に比べて、パンやお米が美味しいって言うのは分かるけどさ。
限度って言う物があると思うんですよ。
「何度も言う様ですが、例え穀物と言えども、同じモノを食べ過ぎるのは……」
ニコニコモードの皇帝陛下の両目が垂れ下がって、ショボンとした感じになる。
「いや、しかし! クレスフィズ皇子は我々よりもっと食べておりますぞ!」
そりゃ彼は育ちざかりだし。
それに毎日トレーニングマシンで体を鍛えているから、運動もきちんとしている。
あんたら、ココに来てから、きっと、食っちゃ寝じゃね?
あと多分、野菜ばっか食っていた所為で、栄養を吸収しやすい――――太りやすい体質になっているぞ。
「ま、待ってくれ、私はそれほど食べていないぞ? この町の住民よりかなり少ないはず……」
それでも野菜を食っていた時より多いでしょ?
野菜を食って成長してきた所為で、栄養を吸収しやすい体つきになっているんじゃありませんか?
あと、モンスター肉を食って成長した人はですね、体の内部も強化されて丈夫なんですわ。
少々、暴飲暴食したぐらいでは太ったりしないんですよ。
「良し、ならば我らも肉を食べれば、もっと穀物を食べられるな!」
ちゃうわ!
いや、それで肉を食べようとするなら、それはそれで良いんだけどさ。
ただ、モンスター肉の毒に耐えうるのは30歳までだ。
それを超えた人には、あまりお肉はお勧めしない。
モンスター肉による、身体強化は望めないからだ。
ただ、摂取する事により、栄養分は摂り込める。
毒の効果も穀物の栄養によって相殺される。
なので、彼らも肉を食えばもう少しマシになるかも知れない。
ただそれよりも、
「良いから運動してください」
動け。
まあ、美味しい物を腹一杯食べたいと言うのは良く分かる。
ついつい、もうちょっと、あと少し、と、手が伸びてしまうのも良く分かる。
特にうちの食堂は無料で食べ放題だ。
自制心が無ければ幾らでも食べてしまう。
その辺りは追々、磨いていくとしても、何は無くともその腹に付いた肉を減らせ。
その状況で食べずにダイエットなどは無理だろ?
それに野菜食中心で太りやすい体質になっているならそれは逆効果だ。
だったら運動するしかない。
とは言え、ただ運動しろと言っても、まともに体づくりをした事がない人達だ、どうして良いか分からないだろう。
となるとだ……要るか? パーソナルトレーナー。
騎士団の誰かに指導者になってもらって、個人ごとに最適なトレーニングを施して貰うしかない。
「とりあえず、詳細は後日に詰めましょうか。穀物を食べて病気になる、等という噂が立っても困りますし」
「う、うむ……その、運動とやらをすれば、もっと食べても大丈夫になるのか?」
「………………」
どんだけ食いたいのよ?
お酒を知らない民族に、お酒を与えたら破滅すると言うが、このお方たちに穀物は、それだけの劇薬だったのだろうか?
不味いな……実は穀物は万病の元でもある。
癌、糖尿病、肝硬変……狩猟時代には無かった病気と言われている。
肉を食って成長した人は、内臓まで強化されているので、その心配は少ないと思っていたが、ここに居る人達は、そうはいかないだろう。
まずはその事を知ってもらう必要がある。
そう言えば、女王陛下お抱えの細工師に泣きながら作って貰ったアレがある。
まずはどうして運動しなければならないか、そこからスタートだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます