第43階層
「王都を遷都しよう!」
ある日、バカが馬鹿な事を言いだした。
「だってこの王都より快適なんだよ? だったらそこに住めば良いじゃん!」
今は夏真っ盛り、エアコンもないこの世界じゃ、いくらゴージャスな王宮であってもそりゃ暑い。
対して、我が日本円ダンジョン、夏は涼しいし、冬でも暖かい。
そりゃそっちの方が良いと言うのは分かるんですよ。
分かるんですがね、そんな大量の人間が住めるようなスペースは無いんですよ。
「そこでこれだ! ペッペケペ~! ダンジョンコア~」
「…………どっから持ってきました?」
「なんと、宝物庫には23個ものダンジョンコアがあったのだよ!」
女王への就任式も終わり、いよいよ新しい体制が始まった。
そしてオレには、新たな使命が発生した。
このバカの暴走を止めると言う最も重要な任務だ。
ああ……少し遠くから見てるだけだったら、またバカな事してんなぁで済んだんだが、自分がその後始末をしなければならない立場になると見方も変わる。
もうちょっとこう、なんとかならんかね?
あっ、昔、執事の方に言われたのと同じ事を思ってら。
あのお方も大変だったんだなあ。
宝物庫には、出入り出来ないように厳重に鍵を掛けたんだが、どうやって入ったんだコイツ。
「王都を守る魔道具に必要な個数は2年に1個、こんなに大量に抱え込んでいる意味はないよね」
大体、40年以上は持つ計算か。
コレを多いと見るか、少ないと見るかは判断が分かれるところだ。
現状のまま、これ以外に使い道が無い、であれば十分な個数だろう。
しかし万が一、ダンジョンコアに別の使い道が出来たなら?
そう例えば、うちの様にダンジョンの拡張に使うとかな。
そうするとダンジョンコアの取り合いになる。
この世界の人の一生が大体40年。
それぐらいのストックは必要だったのだろう。
「聞いているかいイース君、外国から大量の贈り物が届いている事を」
そうなんだよな。
なぜだか分からないが、女王の即位式以降、外国から大量の贈り物が届き続いている。
どうせ贈ってくれるなら、ダンジョンコアを贈ってくれれば良いのに、さすがにそれは入っていない。
「理由はね、我が国との取引を優先的に行ってもらう為なんだよ」
オレは隣に居るファリスさんに目配せする。
ファリスさんはちょっと首を傾げたあと、左右に首を振る。
どうやらうちの暗部でも把握していない事の様だ。
どっから情報を仕入れたんだコイツ。
「こないだの即位式が終わった後、お土産を皆さんに包んだよね」
これからも何卒宜しくお願い致します。と言う意味も込めて、小麦やお米を詰めた袋を、料理のレシピと共にお土産に持って帰ってもらった。
式場でもかなりの人気で、普通はあんな席でガッツかないのがマナーなんだが、どこの国のお偉いさんも、我先にとケーキやら、お寿司やらに殺到していた。
どうやら、それらの品には不老長寿の効果があるとかと噂が流れていたそうだ。
ただ、食うに堪えない不味さである、とも伝わっていたそうだが、今回お出しした品々は、ダンジョン産の前世日本で栽培されていた品質並みの品々である。
なんて美味しいんだ! これで健康になれるなんて素晴らしい! 等と絶賛され、作った料理は全て無くなってしまうという異例の事態が発生した。
「持って帰って、暫く食べ続けるとなんと、若返っていくではないか!」
「そんなに急に効果は表れないと思うんですが……」
「そうだね、少なくとも普通の貴族にはそうだった、だが王族の方達は別だ」
何が違うと思う。と問いかけてくる。
普通の貴族と王族の違い。
渡したブツが違うのか……
実は普通の貴族達には地上で採れた2流品、王族にはダンジョンで回収した物を渡した。
当然、ダンジョンでしか採れない米は王族のみだ。
「さらにだ、全て食べつくしていつもの食生活に戻った途端、元のしわくちゃに戻ったそうだぞ」
…………日本円には武力効果、焼き肉のタレには回復効果、栄養ドリンクには補助効果。
ならば、小麦や米にも何らかの効果があってもおかしくはない。
今まで、ダンジョン産のそれを食べていたのは、まだ若い村の連中ばかり。
一時的に若返るバフ――――穀物の持つ効果を早める力があっても気づきはしないだろう。
そしてそれは一時的なバフなので、摂取を止めると効果が消える。
「危ないですね……」
「だろう? すぐにでもあのダンジョンの強化は必須だと思うよ」
さすがにそんな効果があると知れると取り合いは必須。
十分な供給量を確保しなければ、それを巡って戦争が起こってもおかしくはない。
普通の穀物でも、摂取し続ければ同じ効果がありますよ、と言っても、待てない人達も居るだろう。
「分かりました、とりあえずそのダンジョンコアを持って行って、ハーキャットさんに供えましょう」
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