第42階層 お飲み物をどうぞ
騎士団を投入して荒稼ぎなんて、そんなのインチキだ! と憤慨されるかと思ったハーキャットさん。
むしろ盛大なお出迎えと、毎朝『行ってらっしゃい』のスタンプでお見送りすらしている。
機嫌が悪くなるどころか、とても良い笑顔で騎士団に接している。
騎士団もそんなハーキャットさんをマスコットのように可愛がっている。
さらに、それを聞いた第二王子までやって来て、一緒にダンジョンに行くと言い出す始末。
いや、王子様がそんな事したら危ないだろって言っても、お前が私は前線に立ってこそ価値があると言ったのではないかと、言質をとられていたので、どうしようもなかった。
また、それまで居た冒険者達もハーキャットさんを騎士団に取られてなるものかと奮起しだす。
このままではダンジョンに与える物より減る物が多いので、痩せ細るのではないかと心配したのだが、むしろなぜかダンジョンは拡張されていく。
そのうち、入口には栄養ドリンクと、コーヒーの自販機まで出来る始末。
何故だ?
もしかしたら、ダンジョンに必要な栄養とは、血肉だけでは無いのかもしれない。
人と戦う事で経験値? の様な何かを得ているのかもしれない。
そしてそれは、極限状態であるほど、大きい。のではないか。
だからダンジョンは人を強化する物を用意する。
そもそも食べるだけなら、頭の良いダンジョンの事、もっと他にやりようはあるはず。
必要以上に人を強化しなくても、欲にまみれた人間なら地面に穴をあけて、綺麗な姉ちゃんとかでも投影してりゃ、入れ食い状態だろう。
「この栄養ドリンクっての、本当にうめえな、パチパチと弾ける感触も新鮮だし、なんだか体に力が漲って来るぜ!」
「コーヒーも良いですよぉ。なんだか頭がスッキリします。魔法の威力が上がった気もしますし」
きっとアレ、バフ入っているな。
栄養ドリンクは体力増強、コーヒーは知力上昇とか。
なにせダンジョンで獲れる飲み物なんだ、焼き肉のタレが回復薬であったように、なんらかの効果があってもおかしくはない。
問題は、缶じゃなくて、ドリンクサーバーのような垂れ流しって事か。
入れた日本円の額によって流れ落ちる時間が変わる。
一々個人にやらせていたら混雑必至なので、カウンターを作ってこっちでコップに用意したものを提供している。
ダンジョンで獲れた日本円は、一旦全部回収しているしな。
密閉出来る缶が用意できないのでコーヒーはともかく、栄養ドリンクは炭酸が抜けて外に売りに出せそうにない。
「繁盛しているねえ」
そんなある日、アクレイシス王子、いや王女がダンジョンにやってくる。
「良いんですかファミュ王子を放っといて、危険ですよ?」
「王を目指していた時の彼とは違って生き生きしているように見えるよ。あれこそファミュの天職かもしれないね」
そう言ってほほ笑む。
冷静に見てみると、なかなかの美女に見えない事もない。
今日はやけに、おめかしして来ているようだし。
ジッと見つめていると、頬を染めて照れたような表情を見せる。
仕草も女性らしい。ほんとクオリティ高いわ~。
「そ、それでだね、今日は話があってだね、き、君は私の事を……」
そこだ、言えっ、言うのです! とやら、誤解させたままだと、きっと後悔しますよっ! とやら、王女の着けている胸のブローチの辺りから、どこかの執事や商会の会長の声が聞こえた気がする。
もしかして、やっぱ王様辞めます、とか言い出すんじゃ?
それか、やっぱ男同士で結婚など嫌だとか?
ここまで来て、それはちと不味い。
もう、ファミュ王子が王となっても、リニアもダンジョンも文句は言わないだろうが、じゃあ、何の為に俺達は頑張ってんだよ。と、猛抗議が起こりえる。
「大丈夫ですよ、とりあえず王様にさえなってしまえば後はなんとでもなります」
「へっ、何が?」
「女王になった後の事を気にしておられるのでしょうが、立場が人を変えるとも言いますし、きっとなんとかなります」
「ええ……そんな心配はして無いよ?」
女王になるのに何の心配も無いと言うのも、それはそれでどうなんだ?
逆にこっちが心配になるわ。
しかし、そっちじゃないとすると……
「やはり、私との婚姻の件でしょうか? 別にそこまでしなくとも、私はあなた様を決して裏切ったりはしませんよ」
「あ、それは決定事項だから、絶対に変えられないから」
なにやら食い気味でそう言われる。
じゃあ、何にご不満で?
「そ、それはだね……どうかね、私を見て、随分と女らしいと、そうは思わないかね?」
そう言って、手を広げてクルリと廻って見せる。
ど、どうかな? と言ってモジモジした仕草を見せる。
まるで本当に女性になってしまったみたいだ。
ふむ……もしかして性転換薬、心も女性に変わるような効果があったりしたんじゃ?
TSして心まで女になって親友に抱かれるとか、薄い本の定番だったような気もする。
それを異世界で再現しなくても良いだろうに。
そのうち、元に戻る事を放棄して、このまま女性のままで良いとか言い出さないだろうか?
まあ、それはそれで問題はない。
むしろここまで来たらもう、男に戻ったらややこしくなる。
その辺りはこの王子の自業自得なんだ、我慢して貰うしかない。
ここはアレだ、兎に角ヨイショしとくか。
「とてもお綺麗だと思いますよ」
「え、えへへ……そうかね?」
「ええ、もう、ずっと女性で居て欲しいぐらいです」
え、本当に、じゃあもう良いよね。って、何やらブローチに向かって話しかけている。
良い訳ないだろ、さっさと言え。とやら、あっ、コレはダメな奴ですね、次回に期待ですか。とやら、王女の着けている胸のブローチの辺りから、どこかの執事や商会の会長の声が聞こえた気がする。
「たとえあなた様がどのような姿であったとしても、私の心持は変わりません」
だからもう女性のままで良いじゃん。
そう言うと、なにやら顔を赤くしてポ~とした顔で見上げてくる。
ホント、クオリティ高いよ。
元が男だと知らなかったら惚れてしまいそうなぐらい。
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