第33階層
「…………ここに、私が住むのですか?」
王子様の別荘にしようと思っていた広い部屋。
カプセルホテルの方が良いと言うので余ってしまった。
じゃあ、オレが住むかと思ってウドゥに内装を頼んだんだが……
なにやら、とても豪勢なお部屋が出来上がっていた。
「最近、寄付の催促もねえんでな、旦那の取り分が溜まってたんだよ」
また、一気に出せって言われたら困るから、ここで一気に使ったぜ。などと言う。
どっちにしろ一気に出てるじゃね?
いくらなんでもコレはないっすよ、ウドゥさん。
煌びやかな調度品に囲まれて、巨大な天蓋付きのベットが中央に座している。
ここで寝るぐらいなら、あの王子様じゃないが、カプセルホテルの方が数倍マシだ。
「じゃあどうするんだよ? 今更、返品は効かねえぞ」
「まあ、お任せした私も悪いのだし、客間としてでも使いますか」
「これを客間に……? 威圧外交でもするのか?」
なんで威圧になるんだよ?
そんな事より、どうせ買うならダンジョンコアを買って来て欲しかった。
「どっかの馬鹿な王子様が馬鹿な事しでかした所為で、ダンジョンコアの取引には厳重な管理が入るそうだぞ」
どこの誰だ其の馬鹿な王子って。心当たりはありすぎるが。
普通は領地にダンジョンが出現したら保護される。
他に太い収入源があるのなら、コアを抜いて無力化する事もあるが、そういう場所はそんなに多くは無い。
王家も必要だからダンジョンコアを買い取るのであって、それを横取りすりゃ、そりゃ怒られもするわ。
暫くは謹慎かねえ、あの王子様。
「地道に外で狩ったモンスターを与えて、成長させるしかありませんね」
「おお、そこでだな、こんなもん仕入れてみたんだが、使ってみるか?」
ウドゥが何やら丸い水晶球の様な物を箱から取り出す。
ナニコレ?
「こいつはなあ、ゴーレムのコアなんだよ」
「ゴーレム?」
「ああ、ストーンゴーレムとか、サンドゴーレムとか言う、アレだよ」
一説には、ダンジョンとはゴーレムが進化したモノではないかと言われている。
同じような丸いコアが本体であり、付近の土を操って体を作り出す。
ダンジョンとゴーレムの違いと言えば、操る土の量ぐらいなものだ。
だとすれば、これもこのダンジョンを強化する一助になるのでないかと。
「そうですね、ハーキャットさんに供えてみましょう」
と、ハーキャットさんの所へ持って行ったのだが。
暫くジッと眺めていたかと思うと、おもむろに大きく口を開けてこっちを向く。
なに? そこへ放り込めばいいの?
大きく開いたハーキャットさんの口へ、ゴーレムのコアを放り込む。
するとだ、目がスロットの様にグルグルと回転しだす。
なんだコレ? 当たりでも出るのかな?
そのうちピコン、ピコンと鳴って、目の回転が止まる。
その瞳の中には『塩』と日本語で書かれた文字が。
「なんだコレ?」
「塩って書かれていますね」
「ああ、アレ、ソルトゴーレムのコアだったかあ、道理で塩のツボの中が偏っていた訳だ」
…………偏っていたってどういう事? もしかして、付近に塩があったら、ゴーレムが爆誕してた訳じゃないだろうな。
「心配すんな、ちゃんとソレ用の箱に入れてたんだから。まっ、それでも失敗するときは失敗するがな」
なんて危険なブツを持ち込んでんだよ、おめえ。
寝てる間に塩が集まってゴーレムが出来てたらどうするんだよ。
人間は一度に30グラムの塩を食っただけでも死に至る可能性があるんだぞ。
正直、塩ゴーレムさんは、殴りかかるより、覆いかぶさって口の中に塩を流し込だ方が強いと思う。
「まあ、そういきり立つなって、ほら、なんか自動販売機にボタンが増えているぞ」
ふむ……自販機に近寄ってみると、確かにボタンが一つ増えている。
そしてそこには『塩』と日本語で書かれている。
なるほど、塩が自販機で買えるようになった訳か。
日本円を入れて塩のボタンを押してみる。
真っ白でサラサラな、お塩さんが出た。
この世界のお塩、岩塩が基本なんだよな。
なので、茶色かったり、砂やらゴミやらが混じっていたりする。
味はまあ、塩、だからそんなに変わらないが、不純物が無いと使い勝手も良くなる。
ますます塩にぎりが美味しくなるぜ。
と思っていると、もう一個ボタンが増えた。
ハーキャットさんの方を見ると『おまけ』って言っているアニメキャラのスタンプが頭上に表示される。
そしてそのボタンには『砂糖』と日本語で書かれていた。
塩はまあ、さっきのゴーレムのコアから作ったのは分かるが、砂糖はどっから出て来た?
さてはおめえ、どっかにサトウキビのプラント農場を作っているだろ?
前に見た時にそれらしい物を見かけたし。
くっそ、絶対に何時かプラント農場を探し出してやるからな!
「塩と砂糖かあ……水はコンビニのサーバーからいくらでも出るし、米と小麦で食べ物にも事欠かねえ。もうコレ、ダンジョンから出ずに生きていけるな」
何やら恐ろしい事をウドゥさんがおっしゃる。
もうそれ、人間がダンジョン『を』飼っているつもりが、人間がダンジョン『に』飼われている様なもんじゃないか。
「カカッ、ダンジョンを飼っているつもりが、逆に飼われているってか、笑えるな」
いや笑えねえだろ!?
「結局のところ、俺たちは誰かに飼われて生きているんだ。貴族は国に、商人は金に、俺達はダンジョンに。つまるところそれだけの話だろ」
そんなに気にするような事じゃねえ。と、そう答える。
そうか?
だいぶ違うような気がしない事もないが……別に悪くはないか。
そう思い始めたら、たぶんアカンのだろうなあ。
住む場所、食べる物、後は……なんちゃってポーション(焼き肉のタレ)じゃない、本物のポーションやエリクサーなどの医療品が揃えば、確かに無敵な気もするが。
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