第6階層 寄付ならばおK
「は? 金が欲しい?」
「ええ、出来るだけ早急に、集められる限界までお願いします」
この国では貴族が商売をしてはならない事になっている。
商人は貴族になれないし、貴族は商人になれない。
別に貴族が商人を見下しているとか、商売をするのを忌避しているとか、そういうんじゃない。
政治的権限を持つ貴族が商売しちゃあかんでしょ。という事らしい。
言われてみればその通り。
政治家が商売始めたら、公共事業を好きな値段で自分の会社に卸せる。
気に入らない競合企業があれば、難癖付けて簡単に取り潰せる。
まあ、そういう訳なんで、前世知識で商売やってガッポガッポというのが、貴族である限り出来んのですよ。
ただ、何時の時代でもそういうものには穴がある訳で。
ここでも直接報酬として支給されるのはダメでも、寄付を受け付ける事は出来る。
すなわち、商売の案を持ち込んで、売り上げの一部を寄付して貰う。みたいな事が可能なのだ。
もちろん寄付の先は個人ではなく、適当な名前の財団みたいなのにする。
でもまあこのオヤジ、それを逆手にとって溜め込んでいた資金を横領して、オレに暗殺者仕向けて来たんだよね。
まあ、いつかはやるかとは思っていたんだが。
なんせオレが契約していたの、この国一番のやばいとこ、裏の世界を牛耳るマフィアみたいな団体。
なんでそんな所と契約したの? と言う事なかれ、どこに商売を持って行った所で、こういう奴らと揉めるのは分かっている。
金の沸く所に必ずと言って良いいほど集まって来る。ラノベでは定番だろ?
いずれ揉める事が分かっているのなら、最初から噛ましてやれば良い。
オレが居なければ金が回らない、まで持っていければしめたもの。
少しずつ健全な方向へ持って行っても良い。
まあ、暗殺者を仕向けられた時は潮時かなと思って、オレがここから受けていた債権をやんごとなきお方に回して、そのお方から回収して貰う事にした訳だが。
結果、色々あって泣きながら謝って来たんで、許す事にした。
人は守る物が出来ると弱くなる。
犯罪でもなんでもやって何かを手に入れようとする奴は、何も持っていない無敵の人である事が多い。
当然マフィアなんてそんな奴らの巣窟だ。
だが、そんな奴らにも守る物が出来たとすればどうなるだろうか?
犯罪を犯さなくても、普通に食っていけるだけの収入がある。
貯金が出来て嫁を貰えて、子供も生まれた。
なお犯罪に走るだろうか?
中には居るんだろう、そういう奴も。
しかし、多くの人は安心安全が担保されれば、全てを失う可能性がある犯罪には手を染めない。
オレの前世知識でガッポガッポと儲けたマフィア連中も、なんか、そういう状況になっていたそうだ。
元の泥水をすするぐらいなら、なんだってするから許してほしい。
裏街の情報だってなんだって出す。
えっ、暗殺ギルドが欲しい? そんなの任せといてくだせえ!
なんて言うんで、まあ、継続してお取引をさせて貰っている。
今じゃ、この国一番のマフィアどころか、国一番の優良企業になって、他国からの取引だって始まった。
ただまあ、その時の薬が効きすぎたのか、闇部分は一切取っ払った上に、他もつぶしまわって、過去の事なんてなかったかのようにホワイト面している。
オレが日本円の札束(物理装備)を持って、これ売ってくんない、と言っても、暗器になりそうな物は取り扱い出来ません。だってさ。
変わりすぎだろ?
失う怖さを知った人間は強くなる。
おかげで以前よりやりにくくなって困っている。
まあ、日本の有名な企業だって、昔はひどかったらしいし。
「何に使うんで?」
「やんごとなきお方に寄付します」
「は?」
いやいや、やめてくださいよ、うちらはもう健全な商売しかしてやせんぜ。と言ってくる。
別にあの時の状況を再現する訳じゃない。
ちょっと欲しい物があってな。
金遣いの荒いあのお方なら、もしかしたら国宝を譲ってくれるかもしれないんですよ。
えっ、それ国宝を買うんじゃないかって?
何を言っているんですか、あくまで寄付ですよ?
「何を求めてるので?」
「ダンジョンコアです」
そう、国の宝物庫にならあるはずなんだ。
ダンジョンを大きくするなら、大きく育ったダンジョンコアを与えれば良いんじゃないかと。
ダンジョンだって全てが保護されている訳ではない。
あまりにも危険と判断されたり、増えすぎた物を間引きしたり、土地の拡張に邪魔だったり。
そこで採れたダンジョンコアは国に納められる事が多い。
なにせ意外と使い道が狭い。
ダンジョンコアは強力な魔道具のエネルギーとして使われるのだが、そんな強力な魔道具なんて国家じゃないと扱っていない。
例えばこの王都を囲む、外敵からの不可視の障壁、アイアンドーム。
これを維持する為に、いくつかのダンジョンコアが王宮にあるはずなんだ。
それを使って一気にうちのダンジョンを強化する。
あれが成長するなら、ほぼ全財産をつぎ込んでも構わない。
それをするだけの価値があると、オレはそう思っている。
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