激務に耐えかねたOLが、元同僚の手引で投資を学んでリタイアを目指す。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第1話 同僚が、仕事をやめた! FIREって何?

 同僚の恵比寿エビス 五百里イオリが、仕事をやめた。


 この先、どうするんだろう? 


 ぶっちゃけ、わたしもやめたい。


 でも、先立つものなんてなかった。


 仕事から帰ると、マンガ新人賞の通知が。

 はーあ、今回も落選か。

 でも、めげない。次いくぞ次。

 


 と思っていたら、イオカがウチに上がり込んできたではないか。こんなことは、しょっちゅうだったけど。


「ルカ、シェアハウスしよう」


 何を言われたか、一瞬分からなかった。


「シェアハウスったって、ここマンションだよ? 家賃だってヤバいくらい高いし」


「家賃なら、大丈夫。あたしの家に来なよ」


「わたしを、追い出すわけ?」


「違うってば。家を買ったんだよね」


「家って、相続でもしたの?」


 この子の家って、たしか岡山だったよね? 田舎に引っ越すのかー。遠距離通勤はちょっと。


「買ったって言ったじゃん」


 イオリが、わたしの意見を修正した。


「つまりあたしは、不動産を所持しているってわけよ。一緒に住もうよ」


「でもここ、会社から近いし」


「大丈夫。郊外だけど、ここよりは通勤に便利だよ」


 会社へのルートが、反対になるだけ。ちょっと揺れるなあ。


 普通のサラリーマンだった彼女が、家を買うとは。同僚で同期で同い歳だから、わたしと歳が変わらないよね? たしか三五……ゲフンゲフン。


「でも、お高いんでしょう?」


 いくら郊外って言っても、一軒家の家賃なんて。


「家賃なんて、いらない。持ち家だから、家賃は払わなくていい。ただ、お料理を期待。大半はあたしが作るけど、できれば教えていただけるとありがたい」


 そういうことなら、OKだ。食費も、イオリ持ちでいいという。


 わたしは弁当持ちで、よくイオリにおかずをねだられていた。


「でもいいの? ほぼほぼ全部タダじゃん。わたしは荷物だけ持ってくればいいわけ?」


「それでいいよ」


 イオリはお金に関して、もう苦労していないらしい。


「実はネット証券で投資をしていて、それなりに稼いだのよ」


「それってもうFIREじゃ」


「FIREなら、したよ。さっき」


 いま流行りの『FIRE』とは、経済的自立のことを言う。ほとんどのFIRE達成者は、投資をやっていた普通のサラリーマンらしい。遺産相続で大金持ちになったんだろうな、とばかり思っていたけど。


 サラリーマンが億万長者になるなんて、想像もできないけど。


「あたしの場合は、セミリタイアかな? FIREでも色々あってさ、生活時間から仕事量を減らしてるんだよ」


 会社員のかたわらネット副業をして、あとは投資で儲けたらしい。副業で信頼を得たため、メインの仕事をやめたという。

「元々社会保険目当て」だったとか。


「副業で稼いだお金をインデックスファンド投資に回して、をずっと繰り返していたら、一〇年でほぼ目標金額に達成したの」


 本業・副業・節約・投資。このサイクルが、FIREを生み出すと、イオリが力説した。


「投資か。やったことないんだよね?」


「興味があるなら、教えてあげる。もちろん、始めるなら自己責任になるけど」


「やってみたい。わたしも、経済的に、自立ができるかな?」


 ウチの会社は、決してブラックではない。人間関係も、良好である。仕事量が多すぎて、帰れないだけで。今までは仕事が楽しかったけど、仲間だったイオリがいなくなったら、急にモチベが落ちてしまった。


 合併の話も出ていて、これ以上の成長は見込めない。このままでいいのかな、という不安もある。


「なら、投資を始めてみてもいいんじゃない?」


「そうかも。でもなあ、先立つものがないよ」


「ネット口座なら、一〇〇円から投資できるよ」


「マジ!?」


 だったら、わたしにも始められるかも!


「でも、どうしてわたしに話しかけてくれたの?」


「気が合いそうだったから。あんたとは、いい仲間になれそう」


 そっか。そんなに仕事をやめたい顔になっていたのかな、わたしって。


「あんたセンスあるよ。節約できる人って、めったにいないんだから」


「わたしの場合は、どケチなんだよ」


 飲み会にも参加しない。服も安いものばかり。車も持っていない。


「だからよ。貯金はそれなりでしょ?」


「家賃で吹っ飛んでるけど」


 わたしが倹約家なのは、セキュリティ万全ないい家に住みたかったから。


「でもあたしと住めば、その家賃分も浮くよ」


「いいねえ」


 揺さぶってくるなあ、イオリは。


「どう?」


「まずは、おうちを見せてよ。それから考えさせて」


「よし、明日は休みだから、うちに来て」


「うん」


 


 翌日、わたしは家を見せてもらった。


「ねえ、小さいでしょ?」


 たしかに、すごく小さい。でも、マンションよりはずっと使いやすそう。


「築三〇年。風呂トイレリフォーム済み。土地代だけで買いました」


 すっご。しかも郊外だから、土地代もそんなにしない。二人とも運転しないから、家の敷地に駐車場はない。ちょっと行った先に月極はあるけど。とはいえ、駐輪場はちゃんとある。


「どうかな? こんなヘンピな家は、ダメかな?」


「ここに、住んでいいの?」


「いいよ。ということは」


「住みたい。わたしでよければ、イオリと一緒に暮らしたい」


 こうして数日かけて、わたしは郊外に引っ越した。

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