天使の失われた世界@それは大正時代での百合物語り。

霜花 桔梗

第1話 大正ロマン

 私の名前は『賢見川菜』ごく普通の女子高生だ。


 朝、目覚めると霧が立ち込めていた。霧と朝の日差しが交差する不思議な時間に浸っていると、やがて日常が始まった事を思い出す。


 その後、私は学校に通う支度を始める。


 あああ、憂鬱な時間だ。このまま何処か遠くに行きたい気分だ。


 そして高校に登校して、ホームルームが始まると担任は図書員が怪我で欠員が出た事を話し始める。登録としては図書員の補佐である私は本格的な活動を求められた。


 ふ~う、今まで楽をしてきたのだ、仕方がないかと思う。


 放課後、図書室に向かうと司書さんに書庫での本の整理を指示される。


 うん?奥の方にある本棚に『大正見聞録』なる本を見つける。ふと、気になり、本を手に取ると光が広がり意識を失う。


 これは、私は死ぬのかと思いながら眠りにつく。気が付くと、洋風の豪華な部屋であった。


「川菜、お嬢様、塾の時間です」


 美しいメイドから朝の頼りを受け取る。今日は二度目の微睡だ。やがて起き上がり、私は高台の庭から広がる大正時代の景色に見惚れている。


 嘘か?いや、違う、現実世界が大正時代になったのだ。意識がはっきりとすると戸惑いを隠せない。


 そう、私はこの時代の名士の家に転生したのだ。


 それから、お屋敷を出ると……。


 凄い、何処を見ても大正時代だ。私は『天翔虎女子塾』に通う道の中にいた。


 文京区にある『天翔虎女子塾』は明治維新で女子教育が始まり。創設された高等教育の塾である。


「川菜、お嬢様、今日はどうされたのですか?」

「いや、私って何時からお嬢様になったのかなと思って」

「はい、手鏡です。これを見てお嬢様である事を確認しますか?」

「遠慮しておく」


 私の見た目は現代と変わりない。でも、空に浮島が漂っているのは何故だろう?


 ここは正確な大正時代ではなく異世界なのであろう。


「ところで、メイドさんの名前は何でしたっけ?」

「お忘れで?『黒田小恵子』ですよ」

「ゴメン、あ、あ、ちょっと、脳が筋肉痛で……」


 私は適当にごまかして話しを続ける。


「そう、そう、何で、お屋敷から塾まで付いてくるの?」

「確かに過保護だと思いますが、最近、浮遊島に居る天使が落下したらしく、帝都に社会不安が高まっているのです」


 あーこれでもか弱い女子だ。仕方がないか……。


 塾に着くと早速、英語の授業が始まる。ああああ、英語は苦手なんだよな。中学生の時に挫折した思い出がある。


 などと、愚痴を言っていると。午後の授業が無くなり。塾長の千都氏から塾生に向かって話しがあるらしい。学生全員が講堂に集められると、千都塾長は話し始める。


「皆さん、昨今の天使落下の社会不安から、この天翔虎塾も動揺しています。そこで、警視庁から警備の警官を迎える事になりました」


 紹介されたのは巫女装束の若い女性であった。


「初めまして、皆さん、私が天使御加護機動隊の『海童 麻紀』です。特技は剣術です。そして、この巫女装束は天使の御加護が得られるからです」


 うわー、この人輝いているよ。お姉様として崇めたい。


 私は百合的な展開を望むのであった。


 翌朝から麻紀さんは正門の前に立ち、塾生を校内に向かえる。同然の事ながらファンクラブができていた。女子塾に咲く一輪の花として人気が出たのだ。


 そんな塾の正門に男達が現れて火炎瓶を校内に投げつける。


 女子の高等教育に反対する過激派だ。


 火炎瓶が炸裂して、燃え上がる炎に悲鳴が上がる。私は逃げ遅れ、炎が近くに炸裂する。麻紀さんが駆けつけてくれて、私をお姫様だっこして安全な場所に届けてくれた。


 その後、麻紀さんは過激派にサーベルを抜き戦いを挑む。麻紀さんの気合に負けたのか男達は逃げ出すのであった。これがこの大正時代の帝都の治安なのか……。


 現代では考えられないほど治安が悪い。


 午後。


 私は今朝、男達が投げた火炎瓶から助けてくれたお礼をしようと麻紀さんを探していた。お姫様だっこなど初めての経験だ。思い出しただけでドキドキする。


 そんな、想い抱えて麻紀さんを探す事にした。


 そして、事務の職員に聞くと、麻紀さんは講師控室に常駐しているらしい。講師控室の前に着くと、私はノックをして中に入る。


「うん?君は今朝の可愛い塾生ではないか」


 ああああ、麻紀さんは私の事を覚えていてくれた。これは運命を感じる。


「はい、賢見川菜と申します。お姉様と呼んでいいですか?」

「かまわない、川菜、君とは特別なオーラを感じる。是非、仲良くしてくれないか?」


 確かに私は異世界転生をして、この世界の住人になったばかりだ。そう、最近まで、ただの女子高生だったのにこの世界では特別な事が出来そうだ。


 そんな事を考えながら「はい」と返事を返すのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る