仮名

菜摘

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「生きるは死への回避である。」


僕の友人がよく言い聞かせていた言葉。


今朝、その友人が亡くなった。


「死への回避が出来なくなった者を弔うのはそれをかろうじて回避出来ている者の役目だ。」


そう言って僕は彼の亡骸に別れを告げた。


土に還る友人の姿は薄気味悪くも感じられた。


彼の表情や匂い、重さまでもすっかり僕の記憶の奥底まで焼きついた。


僕は彼に背を向け、彼への想いを馳せながら帰路についた。


なんとも言えない気分に胸が躍った。


「決してこれは隠蔽じゃない。」


罪を犯した後のもう後戻りできないという罪悪感で興奮しきっていた。


「もうすぐ行くからね。」


天を仰ぎながら僕は呟いた。


いや、僕の行く末は天ではなく地なのか。


死をわかつ瞬間まで決して判りはしないことだが、僕はきっと後者なのだろう。


事が表に露見したらどんな戒めを受けるのだろうか。


そこには恐怖などは無くただ楽しみを待つ子供のような自分が居た。


「とりあえず、きょうを終わろう。」


やけに良く廻る頭の回路を落として僕は目を閉じた。





 

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仮名 菜摘 @72me_

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