短編•ショートショート

海沼偲

行列整理

 最近、ようやく仕事が見つかった。何かって? 死んだ人間が最後の審判を受けるための行列の維持と監視だ。つまりは行列整理の仕事というわけだ。

 ただ立っているだけで給金が発生するなんてとっても割のいい仕事だと思って応募したもんだが、そんないいものではなかった。

 死者というやつは、大人しく並んでいることがどうも出来ないらしい。列から外れてどこかへとフラフラ歩いていっちまうようなやつなんかうじゃうじゃいるし、自分の人生にやましいことしかなかったような奴は、今すぐにでも逃げ出そうとする。

 まあ、意思を持って、明確な理由のもとに列から外れるようなやつは俺たちの裁量で地獄の奥底にでも叩き込めるから、逃げた瞬間に終わりなんだが、あいつらはそういう当たり前を知らないのか、俺だけは逃げ切れるとでも思っているのか、挑戦者は後を経たない。

 そんな亡者どもをえっちらおっちらと追いかけて、捕まえて地獄に叩き込むなんてことも、俺たちの仕事なのであった。


「お前さん、今日だけで五人も地獄に落としとるじゃないか、張り切りすぎじゃないか?」

「別に好きでやってるんじゃないですよ。あいつらが逃げるもんだから仕方なしに地獄に落としているんですよ。それに、最近は地獄に落ちる魂が簡単な責苦で抵抗しなくなるから張り合いないってんで、たくさん欲しがっているじゃないですか」

「地獄で働くようなやつは少しおかしいんだから、まともに話を聞いちゃダメだって言っただろ。それに列を乱さないように亡者どもを躾けるのも、お前の仕事だからな。面倒だからって、地獄におとしゃいいってもんでもねえからな」

「へい」


 監督さんはあまり納得していないようだが、俺のやっていることは別に大きな違反行為というわけでもなく、真面目に列に並んでいる方々には無害な訳で、何を言えるということもないのであった。

 こうしてほぼ毎日行列を眺めていると、いろいろな亡者がいるものだと思う。それだけがこの仕事での楽しみかもしれない。

 老人も子供も分け隔てなく、一列に並んでいる、まあ、子供は基本的に親より先に死ぬなんて大罪人だから、地獄行き確定だが。それなのに、一番律儀に丁寧に並んでいるのが健気だ。俺たちに無駄な仕事を増やさない罪人として、俺は評価していたりする。


「あの」


 少しぼーっとしていたら、亡者の方から話しかけられた。こんなことは滅多にない。天国に行けるか地獄に行けるかで頭いっぱいで、俺たちに気にかけるなんてことはないやつばかりだからだ。

 多分だが、この亡者はメスだと思う。正直、オスメスの違いがいまいちわからない。裸に剥けばわかるが、襤褸をわざわざ脱がせようなんて労力すらも惜しいのでそんなことはしない。


「なんだ? 天国か地獄かは俺たちが決めるわけじゃないぞ。出来て強制的に地獄に落とせるぐらいだ」

「別にどっちでもいいです。恋人をぶち殺して来たんで、その人と一緒の場所ならどこでも」

「ふーん、そんな奴いるんだな。みんな天国に行きたいって言ってるよ」

「わたしにはあの人だけなんです。なのに、あの人は他の女の所に行って。だから、殺しました。どうしたら、あの人と同じ場所に行けますか。どっちかが地獄でも天国でもダメなんです」


 まあ、一個だけやりようはあるが、わざわざこいつの願いを叶える必要もないわけで、勝手にしてくれというのが本音である。むしろ、こいつの願いを積極的に壊してやろうかとすら思える。

 だがまあ、俺も鬼ではないので、教えてやろうかなとも思っている。優しさくらいが俺の取り柄だろうよ。でなければ人のメスの言葉に傾けたりはしない。


「どうなんですか?」

「あるにはある。だけど、それがお前の望むことかはわからないぞ」

「お願いします。どうなっても構わないですから、あの人とあなじ場所に行かせてください」


 そこまでいうなら仕方なしに願いを叶えてやるとしよう。俺は周りにしばらく持ち場を離れることを告げ、このメスを連れてある場所へと連れて行く。


~~~~~~~~~~~~~~


 それから数年の月日が経ち、俺は今日もまた亡者の列の監視をしていた。その隣にはあの時の女が立っている。腕の中には赤子がいる。


「そう言えば、なんか、一緒に死んだというか、殺したオスと同じところ行きたいって言ってなかったっけ?」

「嫌だわ、あなた。もう過去の人よ。こんなにも真実の愛を知ったというのに、どうしてあんなクズのところへ行かなきゃ行けないのよ」

「そうか」


 女は赤子をあやしながら、列の監視を続ける。今日もまた、最後の審判へと向かう亡者の列へと目を向けるだけである。それが永遠に続くのであった。

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短編•ショートショート 海沼偲 @uminuma_shinobu

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