第1話 ここは十九世紀ロシア

どうやら前世の記憶があるらしい。


と気がついたのは、物心つくのと同時だった。


「うーむ……?」


「こっち」の俺は4歳だが、前世の俺は日本の大学生だった。

23歳までは生きたはずだ。

そう、同級生は就職している頃。

留年した俺は、授業に出るのも気が乗らず、家にひきこもりがちだった。


親が心配するから、たまには配達の飯ばかりじゃなくて、コンビニくらいには行くかと。

外に出た先で、ひきこもり慣れた身体が危機を察知してくれなくて──


死んだはずだ。


「なぜ記憶が続いているんだ……?」


死んでもまだ「俺」という意識がある。

名前も境遇も違うはずなのに。

何が俺を俺だと思わせている?


よちよち歩きで考えて、俺は自分が「転生」したんだと結論づけた。

おお仏教国日本、死んだ俺の魂は多分輪廻して違う時空に着いたのだ。

最初はどう見ても異世界だと思ったが、徐々に様子が分かってきた。


「こっち」は、ロシアだった。

しかも前世の俺が生きてた時代より、だいぶ前の時代の。

ガキの頭でもそれくらいは分かった。


家には親以外に召使がいて、「お坊ちゃんはロシア人だから」と言ってくる。

あと生まれたての妹もいる。名前はドゥーニャ。

ドイツやフランスもあるらしいから、多分俺の知ってるロシアだ。

風呂は毎日入れない。温めたタオルで身体を拭かれるのがいいところだ。

飯はパサパサした黒いパン。


俺は頭だけはいい。前世でもそうだった。

その頭が記憶と一緒に働き出したらしく、最初は驚いたが、観察していたら楽しくなってきた。


前世の俺は、文系の大学生だった。

そんなの何に使うんだと言われながら、歴史や哲学を真面目にやってた。

おかげでちょっと、この時代のことも知ってる。


せっかく記憶が続いているんだ。

今度の人生は、ちょっとでも後悔しないようにやってみたい。

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