第41話 後藤一乗 (いちじょう)

刀装具に興味が無い方や数寄者の方が読めば苦笑するような文章が今後も少し続きます

私の興味のある金工を多めに取り上げます


後藤一乗(いちじょう)は七郎右衛門、真乗の次男として生まれました

十五歳で早くも家督を継ぎ、名前を栄次郎から光貨に改めます

更に五年後の二十歳には光行と改めます

三十四歳で法橋に任じられ名前も一乗光代と改めます

その後、法眼に叙せられ八十六歳の長寿で没します 


一乗は丸顔の大きな体躯で酒は飲まず、低い声であったようです

やはり、多趣多才で和歌俳諧を嗜み、囲碁、三味線、地唄、法師歌などを特に好み、夜更かし型の人間でもあったようです

先ほどの宗珉の時代から余り時間を経ていないのか英一蝶(はなぶさいっちょう)とも交友はありました


後藤家の伝統的な指導で育った人間でしたから龍や獅子の作成は特に優れていて人物も鳥も虫類も大変に上手です

この頃には町彫りの勢いが俄然強くなり、先の宗珉の余波で町彫りは隆盛期となり後藤家は圧倒されていました

本人も期するところを感じたのでしょう、従来の後藤の家彫りの根幹であった始祖を貴ぶ姿勢に一大改革を取り入れました

つまり、先祖の作を模倣する事から写生の事実を取り入れて実際の線や面を下絵作りから始める、というアプローチを始めました


後藤家の規則を破り地金に鉄を使ったり、石目地を用い、鐔も作り打ち返し耳も試しました

小柄の裏に板金を使用し、いずれの材料も最高の材質で整えて作成にあたりました


金砂子象嵌技法は一乗による工夫の一つとされています

これらの一乗による成果は、当時の町彫りの領袖として活躍していた河野春明法眼と比較しても負けず劣らずの作品を作る事で後藤家のメンツを保つ事にも成功しました


彼自身の作品は現在では中々見る事が出来ません

一乗工房の作品であるならばたくさん見る事は可能ですが、彼自身によって最初から最後までを作成した品物となるとグッと数は少なくなります


その中でも、以前書いた龍獅堂で発行した鏨廼華には一乗の作品が相当数掲載されていてまさに豪華賢覧な手業が見られます


中でも圧倒されるのは銅地高彫りされた作品で

 『聖衆来迎図』の大小揃いの鐔たちはその写実性や微細な作り込みには刀装具を知らなくとも見た者は一瞬立ち止まるほど感動を覚えるハズです


格調も高く、揃いモノを多く作成したのはやはり、元は家彫りですから高官からの拵えに使用するための注文が多かったのかも知れませんし、それらにより大切に伝来したからこそ、現代でも揃いモノとして綺麗な状態で残されたものと思われます


ただ、実際に鏨廼華に掲載されている美品が国内に全て残っているとは考えられず、相当数は海外にも持ち出されている事が想像されます


門下には後の有名人がたくさん集まりました

和田一真 船田一琴 荒木東明 中川一匠 橋本一至 今井永武 安達幽齋 福井一寿 形岡一挙 等々


一門を統率していくばかりか、彼ら門下生が陽の当たる場所で活躍していける素地を作り、後押しした事も容易に想像がつきます


いずれは彼の一級品を手元に置いてみたいものです











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