第弐拾陸舞

私が髪飾りを取ると同時にブワッ!とほのおが私を中心にして舞い上がる。


それと同時に私の右目が緋色に変わった。


緋眼ひがん。「全てを見透す目オールスルーアイ」などとダサい異名をつけられた私の忌むべき力。


異名の通りとまではいかないがこの目は大抵のものが見える。…見えてしまう。


相手の筋肉の動き、感情、そして思考さえも見えてしまうのだ。


この桜の髪飾りはそんな力を防いで置く制御装置のような役目をしてる。


普通の人より膨大な霊力を持っているらしい私の霊力を普通の人より少し多いくらいの霊力まで抑えてくれる。


まぁ髪飾りをつけていても相手の考えというのはある程度分かってしまうんだけど…。


というのも経験則で分かるが無意識に霊力で防いでいるらしく、霊力が多い人ほど考えなどが見にくくなる。


それでも嘘をついているかどうかくらいは分かってしまうんだけどね。


「何だよそれ、ちょっとカッコいいな」


「…そんないいものでもないよ。ちょっと離れてて。巻き込まれちゃうよ」


そう言いながらブワッ!と私とまいを囲うようにほのおおりを作る。


「うぉ、あっつ!」


生き物は本能的に火を恐れる。


それがたとえ百獣の王とも言えるジェヴォーダンの獣だとしても。


ほのおおどろいてたじろぐまいに私はゆっくりと歩いて近づく。


まい、大丈夫。もう怖いものなんて何もないよ。私は、まいの敵じゃない。味方だから。」


半分けみたいなもの。まいの意識が戻るか戻らないかの。


「だから落ち着いて。ほら、私はもう攻撃なんてしないから」


声をかけ続ける。


ほのおおりは万が一まいの意識が戻らず暴れまわる事があっても被害を抑えるためだ。


「私は信じてるよ。戻ってくるって」


そう言いながら手を差し出す。


ガブッッ!!


反射的にか、意図的にか私の差し出した手に噛みつくまい


何本ものナイフを同時に刺されたような痛みに顔を歪ませる。


「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて」


そう言って優しくまいの顔を撫でる。


「怖くない。怖くないよ」


何度も呼びかけ続ける私。


するとまいの目に理性のようなものが宿ったような気がした。


それと同時にゆっくりと口を開き、ペロ、ペロ、と傷口を舐め始めた。


「ごめんね」とそういうふうに。


「おかえりなさい。まい


ギュッ、と空いている方の手でまいを抱きしめる。それと同時にほのおおりも消した。


「よく分からんが一件落着、ってことでいいのか?」


後ろから天宮あまみやがそう言いながら歩いてくる。


「そうだね。協力してくれてありがとう。あなたがいなかったら少し大変だったかな?」


「素直なんだな…」


目を大きく開いて驚く天宮あまみや


「感謝くらいちゃんとするよ」


全く、私を何だと思ってるのやら。


…にしても一件落着、ね。


この言い方だと2件目3件目があるみたいで嫌な感じだ。考えすぎなだけだと思うが。


そういう当たってほしくない予感というのは総じて当たってしまうようなものらしく。


「結構苦労したんだけどなぁ」


除霊高じょれいこうの制服を着た男がこちらに歩いてくる。

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