15話 結婚する夢で見た服
「ちょっと待って、陽太。なんで急に服なんか買いに行くんだよ!?」
「いいじゃんいいじゃん~!女子と服買うのって、俺初めてだから~!」
「お前、俺と七瀬の関係知ってるだろ……!?」
蓮と陽太は高校の時に初めて会ったものの、ウマが合って一緒に行動することが多かったのだ。
そのせいで、当然陽太は連と莉愛の関係にある程度気づいていて―――それを踏まえた上で、彼はさりげなく質問をしたのだ。
七瀬とはどういう関係だ?と。
蓮はその場では悩んでいたものの、結局は陽太を信頼してすべてを語っていて。
だから、今この状況が納得ができないのである。この場面で、あえて莉愛たちと一緒に行動しようだなんて……!
「ええ~服買いに行くのくらいで大げさだな~それとも、なんだ?そんなに七瀬のことが気になるのか?」
「バカ言え!ああ……頭痛くなってきた」
「ぷはっ、たまにはいいだろ?ほら、早くついて行こうや」
ひそひそ話をしていたらずいぶんと離れてしまって、二人は素早く前を歩いている女子組と合流する。
そこで、蓮はある違和感に気づいた。莉愛がちょっと恨みがましい目で由奈を見つめていたのだ。
「あ、おかえり~」
「いや、白水。どうしたんだよ」
「うん?」
「なんか、七瀬が怒っているように見えるけど……?」
「あはっ、怒っている、か……」
そこで、由奈は莉愛を見つめながらぼそっとつぶやく。
「私には恥ずかしがっているようにしか見えないけどね……」
「っ!?由奈!?」
「うわっ、ど、どうしたんだよ?」
「日比谷は気にしなくてもいいよ。それより、早く行こう?私、最近めっちゃいいアパレルショップ見つけたんだよね~~」
何故かウキウキしている由奈に倣って、3人はしばらく歩いた後にアパレルショップに入る。
どうやらオーナーと由奈は知り合いらしく、二人は和気あいあいに話を広げた。
蓮はショップの内部を見ながら少し感嘆をこぼす。
「なるほど、確かにいい服いっぱいだな」
「だな……俺もなにか買って行くか」
「ちょっと待って、陽太。そもそも買う気で来たんじゃなかったのかよ……?」
「うん?あっ、ああああ!!そうだった。そうだったな!!あははははっ!」
こいつ、いつの間にか白水に染まりやがって……!
状況が不味くなったを察したのか、陽太はそそくさと蓮から離れて、由奈がいるカウンターの方まで足を運んだ。
「……で、あなたはどうするの?」
「うん?」
蓮がぼうっと立っていると、いつの間に隣に来た莉愛がそう質問を投げかけた。
「服買うんじゃないの?ここまで来たってことは」
「いや、俺は別に服買う必要ないから。ていうか、君こそ買ったら?」
「なんで?」
「……家では少し露出少ないやつにしてって、前に言っただろ?」
「なっ………!?ほ、他の誰かが聞いたら!」
「大丈夫だよ。陽太たちはあそこにいるし」
店内は広いし3人とも離れているせいで、話し声が聞かれる恐れはない。
それを莉愛も察したのか胸をなでおろすものの、彼女はすぐに目を細めて蓮を見上げた。
「露出少ないやつってなによ……別に、家で私がどんな服を着ていようが、関係ないでしょ?」
「もしかして莉愛さんには性知識というものがないんでしょうか~?」
「あ、あるよ!あなたが教えたじゃん……」
「………っ!だから、そんな匂わせるようなことを言うなって……!ああ、もう!こっち!」
「ちょっ……!?」
咄嗟に蓮は莉愛の手首を握って、レディースの服が並んであるところに彼女を連れて行く。突然の行動に、莉愛は驚いてしまった。
でも、手首を握っている力は優しくて。蓮も、乱暴にならないように最大限気を付けていて。
付き合っていた頃の記憶がまたよみがえり、二人は気まずそうな顔をしながらも――服に目を向けた。
「これとかどう?定番だろ?」
「私、白いTシャツは何着もあるんだけど」
「なら、次からはこんなまとまなヤツを着てもらえませんか……?生地薄くて肩が丸出しになるやつじゃなくて!」
「な、なにを着ようが私の勝手でしょ!?」
「いつの間に露出狂になったんだ……!って、そうだな。これならどう?」
「えっ?」
その時、蓮はちょうど良さそうなシャツを見つけて、そのハンガーを取って莉愛に見せた。
それは、薄いピンクをベースに猫のイラストが描かれている半袖シャツだった。
「猫、好きだろ?おまけにこんな柔らかな色合いも好きだしな」
「……えっ、これって」
「俺はよく似合うと思うけど……って。うん?どうしたの?なんでそんなに顔を真っ赤に……?」
「だ、ダメダメ!!」
その瞬間、莉愛は爆発したように両手を激しく振り始めた。
「ダメ、絶対にダメ……!それだけは買っちゃダメ!」
「え、えっ!?どうしたんだよ!?」
「だって、だって……!っ、と、とにかくダメなの!その服は、その服は………うぅ……」
「……莉愛?」
蓮はわけが分からなくなって首を傾げる。
だって、莉愛の好みを踏まえたら、この服がダメなわけがないのだ。むしろ、ドンピシャだと言ってもいいくらいなのに。
莉愛はとにかく猫が好きだし、可愛いイラストも大好きでそういうシャツも何着か持っているから。
なのに、莉愛は惜しむように猫のイラストを見つめながらも、首を振るだけだった。
「あ………ぅっ」
「本当にどうしたんだよ……えっと、この服嫌いなの?」
「ううん、嫌いじゃないけど……むしろ、大好きだけど……ダメなの」
「うん?大好きなのにダメ……?」
「あ、あなたは知らなくてもいいことだから!」
曖昧な返事だけ残して、莉愛はさっそく背を向けてから次の服を見始める。
言えるわけがなかった。だって、その服は―――夢で見た、蓮と結婚していた時に自分が着ていた服だから。
夢を見ている最中にも綺麗だな、あの服欲しいなと思っていたのに。
もし、本当にあの服を買って着てしまったら……夢の中で見た未来が、そのまま実現されそうな気がして。
嬉しいけど、なんだか否定しなきゃいけない気がして。だから莉愛は、あえてこのシャツを選ばなかったのだ。
「こ、これにする……黒の、猫ロゴあるもの」
「本当に猫好きだよな。まあ、いいっか。他に見たいのは?」
「他には、スカートくらい……って、これは由奈と選ぶから!」
「分かったからそんな反応するなよ。あ、あそこに白水いるぞ?」
「……うん」
莉愛は恥ずかしそうに俯いて、そそくさと由奈に近づいていく。
そして、残された蓮は。
「大好きって言ってたし、露出もそこまで多くないし……ダメとは言ったけど、むちゃくちゃ気に入ってたよな?」
自分が選んだこの服が、未来に自分と結婚した莉愛が着る服だってことを、全く知らずに。
「よし、買うか」
いとも簡単に、その服を持ってレジに進むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます