失われた国宝と占い屋

信仙夜祭

第1話

 そのお店の場所は、誰にも知られていませんでした。

 でも、確かに存在します。

 本当に必要となった人の前にだけ現れる、不思議なお店……。



 ──コンコン


「開いていますよ。ようこそいらっしゃいました」


 一人の壮年の男性が、ドアを開けて店に入って来ました。


「ここは、占い屋で合っているのか?」


「はい! 占い屋カンロにようこそおいでくださいました」


 店の主人は、頭を下げて一礼した。


「うむ。本当にあったとはな……。まあ良い。相談があって来た」


「……失われた国宝の捜索ですね?」


 笑顔の主人と、驚く依頼主。


「立ち話も何なので、お座りください。お茶をお入れしますね」





 その国の国王様は、年老いて次の国王を決めなければなりませんでした。皇太子です。

 でも、国王様には、五人の子供がいました。それぞれ一長一短があります。

 第一王子、第二王子、第三王子、第一王女、第二王女の五人です。

 本当はその人達以外にもいるそうなのですが、誰も口には出せません。


 嫡子は、母親が全員異なりました。

 大臣どころか、国民も誰が皇太子になるのかで、噂話は持ち切りでした。

 自分が尽力したり、その土地の領主が皇太子になれば、後に厚遇されます。

 また、皇太子に選ばれなかった土地の平民は、土地を接収され開拓村に送られることもありました。

 こうして、その国は小さな争いを起こすようになっていたのです。


 悩んだ国王様は、子供達に試練を与えました。

 先代の国王の時代に無くしてしまった、『失われた国宝』を見つけた者を皇太子に任命すると。

 国中の人々が、動き出しました。考えは皆同じです。


「失われた国宝を見つければ、大金持ちになれる……」


 ある街は、農業を放棄して山の樹を切り始めました。山を荒し始めたのです。

 未踏の地にこそ、目的の物があるのではないか……。誰かが呟いた言葉を、全員が信じたのです。

 その街は、冬になると食べる物がなくなりました。

 農民達は、自分達の財産を売り払って他の街より食料を買い、命からがら冬を越すことが出来ました。

 しかし、山に樹がなくなってしまい、動物も寄り付かなくなってしまいました。また、毎年取れていた山菜も芽吹かなくなり、山の恵みが何も得られなくなりました。


 農民達は、荒れた畑を耕し始めました。もう誰も、国宝のことは口にしません。

 それを見た第一王女は、国王様に王位継承権の放棄を願い出ました。国王様が認めて、第一王女は、王城から領地へ向かいました。これからは、荒れてしまった街の復興に尽力するそうです。



 ある時、第二王子の領地に金銀財宝が運び込まれました。

 そして、一年後に第二王子から国王様に一本の剣が送られました。これこそが失われた国宝だと……。

 国王様は大激怒しました。


「これが、『失われた国宝』だと? ふざけるのも大概にしろ!」


 第二王子が反論します。


「そ、それでは、『失われた国宝』はどの様な形をしているのですか?」


 国王様は、答えませんでした。実のところ、国王様以外、誰もその形を見たことがなかったのです。

 ですが、『失われた国宝』があることは、国民の誰もが知っています。『恩恵』を受けていたからです。

 第二王子は、国外追放処分になりました。


 第一王子は、迷宮ダンジョンに挑みました。国内の実力者を従えて、『さまざまな神秘や謎や宝が埋もれている危険な領域』の探検です。

 第一王子は、この国にいくつかある迷宮ダンジョンを攻略して行きました。そして、帰って来る毎に様々な秘宝を国王様に献上しました。ちなみに金銀財宝などは、探索に着いて来てくれた仲間に分け与えたそうです。


 ですが、国王様は、全て違うと言い放ち、首を縦に振ることはありませんでした。

 第一王子は、次第に不満を募らせて行きます。

 迷宮ダンジョンの探索には、多くの金銭と命が失われていたからです。ですが、第一王子は、反乱を起こすことはありませんでした。また、仲間を集い新しい迷宮ダンジョンに向かって行きました。


 一年後に、王子と共に迷宮ダンジョンに挑んだ者の一人が、逃げ帰って来ました。

 第一王子の探索隊は、全滅したそうです。



 残りは、第二王女と第三王子だけです。


 国民は、この二人のどちらが皇太子になるかで、意見が真っ二つです。


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