第6話 武力さえあれば
「な、なんだてめぇら!」
いきなりの襲来に、慌て気味な奴隷主が1人。雰囲気的に、屋敷の敷地内で散歩でもしてたんだろうな。だが、それが命取りだ。
「知るかぁ! 死ねぇぇぇ!」
1人の奴隷が、その手の鎌を思い切り振り上げ、奴に向かって切りつける。
「ぐぁぁぁぁ!」
土にまみれた狂気の刃は、奴隷主の胸元を勢いよく切り裂いた。当然の切れ味。だって、俺ら奴隷が毎日毎日研いでたんだからな。自分のためじゃねぇ。てめぇらクソッタレのために。
「よっしゃ、俺も行ってや……」
「待て待て」
俺はポンと肩を叩かれた。ユードラだ。
「どうしたんだよ。止めることないだろ」
「いや、大いにある。お前は今やこの反乱軍の長だ。そいつが討ち取られたら……」
「指揮が大幅に下がる」
「そうそう。分かってんじゃん」
確かにそうだ。戦乱の世、戦をやってた将軍はあまり前に出ていかなかった。今は俺がそのポジションなんだ。
「ま、君を戦力として使わないのは勿体ない。前方の安全が確保されたら人間砲台として活躍してもらうかな」
ユードラはそう言って微笑んだ。
――
「よし、そろそろだね。行ってこい」
「おう!」
ユードラから了承が出た。それを聞いた俺は急いで屋敷の中へと向かう。
「……すげぇ、身体が軽ぃ」
風を切りながら走る。いや、比喩じゃなくて、本当に風を切ってるみたいに速い。まるで、俺が俺自身じゃないみたいだ。それに受けた傷が回復しているこれも、ユードラの球体の効果か?
屋敷の廊下には、奴隷主やその使いの死体が所々に転がっていた。その飛び散った血しぶきから、激戦の様子が見て取れる。幸いなのは、ヤマト人らしき死体がない事だ。
「このゲスな奴隷どもめ! この私に近づくな!」
走り続ける俺に、奴らの使うルーブ語が耳に入った。どうやら、まだ生き残りがいたらしい。俺は十数人で列を成す民衆の裏から、その様子を伺う。
「もうてめぇはおしまいだ! 屋敷の奥の奥に追い詰められちゃあな!」
仲間の1人がルーブ語で囃し立てる。対する奴隷主は怯えた表情でこちらに罵声を飛ばす。その手に握られた銃は飾りだろう。今のこいつには、撃てねぇ。こちらに向けているだけだ。撃ったら、殺すだけ。
「ふん、お前らは勘違いをしているぞ」
「あん?」
奴はそう言うと、壁――それは暗幕だった――を引き破り、そのままそこへ身を投げた。そこ、行き止まりじゃなかったのか。
「なに!?」
「ははは! これが逃走経路だ! 誰か飛び降りてみろ! この銃で撃ち落としてやる!」
なるほど。そう来たか。やられたな。だが――
「俺に任せろ」
「ヒロト様!」
俺が声を発した途端。民衆たちは揃いも揃って歓喜の声を上げた。これだけ露骨だと、何か照れるな。
「おぉヒロト。何か策があるのか」
「もちろんさシゲミツ。じゃ、ちょいと開けてもらっていいか」
俺は仲間たちの間を通り、奴隷主が見える所まで来た。
「な、なんだお前!」
ふ、あの場所にお前はいなかったからな。知らんだろう。
指を構え、敵に撃ち込む。奴も慌てて銃を構えるが、遅い。俺は既に発射済みだ。
「吹き飛べ」
現代の技術では再現できない爆発。それが奴を中心として、無慈悲にも炸裂した。そこに残るのは、黒い大地のみ。生命の小さな息吹すら残さない。
「お見事。見てきたけど、さっきので最後みたいだね」
ユードラが優しい声でそう呟く。
「と、言うことは……」
「ああ、そうだよ」
「俺たち、じゆうだぁぁぁぁぁ!!!」
「「「やったぁぁぁ!!!」」」
主の消えたその城で、俺たちは勝利の雄叫びを上げた。
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