第20話 One×One③
○○○
王都から帰ってくるときに、宰相のじーさんからもらった物がある。《連絡の宝珠》である。
当初、希少で高価な物だとアシュが言っていたことを思い出したので、丁重にお断りしたが、「いいから、持ってろ」と押し付けられる形で俺の物となった。
アシュ、すまない。
ふと彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
俺に《連絡の宝珠》を見せてくれたとき、彼女はふふんと胸を張って、可愛らしく得意気な顔をしていたなぁ。
俺もついに手に入れちまったよ、《連絡の宝珠》を……。つうか、みんな持ってるよこれ。まるで《連絡の宝珠》のバーゲンセールだな……。
ま、まあ、それはさておいて、このアイテムは、所有者の魔力を登録し、さらに別の所有者やその《連絡の宝珠》のデータを登録することで相手との連絡が可能となる。俺に与えられたそれには、どういった話し合いがあったのか、送り
意図せずに手に入れた《連絡の宝珠》であったが、使わないのかと言えば、そんなことはなく───と言っても、わりと頻繁に連絡がきたりするので、受け身ではあるが使用頻度はそれなりであった。
クロエとクロアのテゾーロ兄弟からはちょくちょく連絡がくる。そもそも俺は彼らの《連絡の宝珠》を登録した覚えがないのだが、ということはつまり……。
前にクロエと話をしたときに聞いた通り、彼らは信頼出来る後継を指名し、引き継ぎを済ませると、すぐさま《
そうして、海を見に行くと言って北の方へと旅立った彼らは、海を見に行くという名目の元に、これまで体験し、観ることの出来なかったあれこれを堪能しているそうだった。
今まで弟クロエの不調のために彼らは多くの行動を制限されていた。これまでやりたかったこともいっぱいあったはずだ。彼ら二人はそれを取り返すかのように旅を楽しんでいる。
ただ、まあ───
もしくは、少なくとも《連絡の宝珠》による便りがあれば、安心が出来るというもんだろう。
◇◇◇
確か一週間ほど前のことだろうか。彼らから連絡がきた。
クールイケメンの兄クロエと中性的ショタのクロアの二人は、ようやく海の気配を感じたそうで、以前までの二人とは思えないほどの元気の良さであった。
『イチローさん、元気してるー?』
「おう、二人はどうだ?」
『僕達も元気! イチローさん聞いて聞いて! 僕達すごい経験したんだ!』
「あんだよ?」
『僕達、ついに魚を食べたよ!』
『ボルダフじゃあ食べれても乾物だったからね』
「魚なー、生でも煮ても焼いても美味いよなー。俺も好きだわ」
『す、すすすすき?! それってまさか───』
「クロエ、何?
『ほら、深呼吸して、落ち着いて』
『だってイチローが私のことを───』
「君ら二人で急にどしたん? 疲れてるの?」
『あ、あー、イチローさん、兄が少し疲れたみたいなので、ごめんなさい! また連絡します! 乾物はたっくさん買ってますので、帰ったらイチローさんにもお裾分けしますね』
「おう! お大事にな!」
『それじゃあ、また!』
『イチロー、まだ話が───』
などという、やり取りをしたのであった。
そうだ、昆布もあるなら買ってきてもらえるように、明日にでもこちらから連絡をとるか。
○○○
「あとでピザもパイもスイーツもお肉もお腹いっぱいに食べれるから、今は腹八分───んー、半分くらいで止めておいてくれよ」
「ふァかっは」
「『わかった』って言えないくらい頬っぺたパンパンに食べ物入れて! もうこの娘だけはほんとにもう!!」
頬袋パンパンに食べ物を詰め込んだハムスターよろしく、セナが口の中いっぱいに食べ物を詰め込み、俺に形だけの了承をしてみせた。
けれど、セナはそんなところも最高に可愛いのだ。
やったー! セナかわいいー!!
はっ!? 俺はいったい何を……(正気に戻った)。
「あー、多めに用意してて良かった」
俺が朝起きるのが遅かった原因は、夜遅くまで食事の下準備をしていたからであった。まさに転ばぬ先の食材である。
さらに準備をしつつも、思考に耽ると、白魚のような手がぬっと伸びた。
「セナ、食べたらダメだって」
冷ましてるビスケットを一枚、二枚、三枚、四枚と口に放り込んだセナが、俺の咎めに対し、さらに一枚摘まんで、ぴゅーっと外に駆け出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます