第37話 聖騎士 vs 勇者(究極完全体) ②
◇◇◇
☆《限界突破》☆
本スキル使用者は限界を突破する。
また限界が指すものは人類の限界である。
[現時点での人類の限界点→山田一郎]
本スキルの使用によって、スキル所有者である竜宮院王子の膂力、体力、魔力、素早さなどのステータスは現時点での人類の限界点である山田一郎を超え、また限界点とされた人物の奥義の一つを修得する。
◯◯◯
油断していたつもりはなかった。
けれどこれは俺の落ち度だ。
竜宮院が俺に背を向けて逃げ出した。
「待てよ!!」
しかし、彼の速度は凄まじいものであった。
それこそ、俺の通常の速さを超えるほどの───
「ちょうど良かったよぉッ!!」
竜宮院が叫んだ。彼の進行方向にいたのは、ミカであった。
「薄汚い野良犬以下の裏切り者ォォォォッッ!! 死ねェェェェッ!!」
彼は《破邪結界》の使用で、無防備となったミカへと怒りの刃を振るった。けれど凶刃は彼女には届かなかった。
「───ッ」
彼女の前に飛び出したのはヒルベルトであった。
ヒルベルトのその巨体は、竜宮院の一撃により真っ二つに切り裂かれて、崩れ落ちた。
「ちょうど良かったぞ!! 確かお前も俺を裏切ってたなァァ!! この豚がァァァ!!」
ミカは慌てながらも、ヒルベルトに回復魔法を掛けた。
「ハロ───さ、ま」
ヒルベルトが誰かの名前を呟いた。
ミカの回復魔法は、誰よりも速く発動し、誰よりも速く効果を発揮する───しかし、今の竜宮院はそれよりも速い。逃げるついでに恨みを晴らす───行き掛けの駄賃とばかりに彼は再び凶刃を振るった。
「力があるってのは───こんなにも良いことなんだ───なッッ!!」
再びミカへと振るわれた刃───
「ハァッ!!」
それを受け止めたのは剣聖エリスであった。
「もう、終わりにしましょう」
彼女が、淡々と諭した。けれど、
「何だぁッッ! 裏切り者オールスターズかァッ? 俺がここから脱したら機を見てお前も消そうと思ってたんだッッ!!」
竜宮院の剣が、圧倒的な速度と膂力でエリスの白グラムを弾き飛ばし、彼女を前蹴りで吹っ飛ばした。そこで───ギリギリでエリスを抱きとめたのはオルフェであった。
「何やってんのよバカ」
しかし、オルフェにもダメージがあったのか、竜宮院から距離を取り───エリスを立たせると双剣を抜いた。
「暴力女か。お前にも酷い目に合わされたな。俺は絶対に絶対にやられたことは忘れないッッ!!」
エリス+オルフェ 対 竜宮院という図式が成立し、瞬間的ではあるがジリジリとした緊張感を醸し出した───が、
「選手交代だ。竜宮院、何逃げてんだよ」
再び、俺が竜宮院の前に立ちはだかった。
「山田の、くせに……ッッ」
竜宮院がその端正なマスクにエラが張るほどに奥歯を噛み締めた。
「説明は省くが、逃げようったって無駄だ」
☆《神気結界》☆
神気によって構成された結界の変形版。
遣い手であるセナやオーミの許可なき者は、それが例え世界最高の戦士だろうが魔法使いだろうが、結界内から外に出ることは不可能である。また内部で発生した能力が外に漏れることもない。
俺が見やると、センセイが俺にサムズアップをし、セナが深く頷いてみせた。
───イチロー、ここが正念場!!
───ムコ殿、今までやられた分やってしまえ!!
ああ、大丈夫。
視界は良好。体調は万全。
テンションなんてもう最高潮だ───
ミカが祈り、エリスが目を輝かせ、アンジェはプルさんの肩を握りしめている。アノンも、アシュも、クロエ達も、みんな俺の勝ちを願ってくれている。
先に飛び掛かったのは俺だ。
「ああッッ!!」
ギン!
竜宮院は躊躇うことなく俺の剣を正面から受けた。
「君、そんなに訓練してきたのにその程度なの?」
俺の力だってそんじょそこらの踏破不可迷宮のボスには負けやしない。けれど、竜宮院はそれを完全に受け止めた。そして、鍔迫り合い───
「ぐうぅぅ───」
「ほらほら! 僕も中々やれるだろ! これなら、逃げずにこの場の人間を全員排除しようかなァッ!!」
俺は力を振り絞り、
「らぁッッッ!!」
余裕綽々の竜宮院を弾き飛ばした。
そこで後方へ大きく飛んだ竜宮院が《結界》に触れた。バジジジジ───悪しき心に反応し竜宮院の背中にスパークが走った。
「これは……!」
「『逃げずにこの場の人間を排除する』だっけ? 違うぞ。お前にはもう、『逃げる』という選択肢はない」
竜宮院が剣を構え、ぐっと腰を落とした。
「ここがお前の終着点だよ」
今度は竜宮院だった。
圧倒的な速度に圧倒的なパワー。
「うおおおおぉぉ!! 山田ァァァ!! 全部ッッッ!! 全部ッッッ!! 全部ッッッ!! お前のせいだァァァッッ!!」
俺と鍔迫り合いしても、体勢を全く崩すことのない卓越したフィジカル。けれど───
「なわけ、ねーだろ」
戦いなんてものは、力と速度だけで決まるもんじゃない。
力が全てならロードローラーにでも乗ればいい。
速さが全てなら鷹が最強か?
竜宮院の剣戟をするりと滑らせて彼の剣を弾き飛ばした。
「全部お前自身のせいだよ。お前がやったことがお前に返った───ただそれだけのことだ!!」
けれど、竜宮院にはまだ余裕が見えた。
彼がキザったらしく髪をかきあげた。
「山田───
人を小馬鹿にした悪辣さのみならず、その後ろに見え隠れするのは、彼の性根から透けて見える邪悪さだ。
「君の必殺技あっただろ? アウトストレートだっけ?」
竜宮院が「ダッサ」と噴き出すと手を叩いて笑った。
「───僕ならこう名付けるね」
彼が唱えた。
「《
カランカラン。
手にしていた黒グラムを床に落とした。
次いで俺は立つことあたわずどしゃりと崩れ落ちた。
一瞬で俺の両腕と右足が切り落とされていた。
「はははッッッ! 山田ッッッ!! 次は左足を切り落としてダルマにしてやるよォォォォッッッ!! 無様なお前には無様なダルマがお似合いなのさッッッ!!」
竜宮院の邪悪な哄笑が王の間に響き渡った。
☆《
竜宮院王子がスキル《限界突破》を使用することで、山田一郎の奥義である《
「で?」
それが何だといういうのだ。
「へぇっ?!」
俺の反応に竜宮院が目ン玉をひん剥いた。
「『で?』って……お前───い、痛いだろ!? 泣き叫べよ!!」
「喚くなよ。こんなのいつものことだろ」
俺にはこれこそが日常だった。
慣れなければ、生きてこれなかった。
上体を起こし、即座に左足と右腕を光魔法で代替してみせた。
「な、な、な、」
左腕を拾い、光魔法で接着し、何度か拳を握り動作を確かめた。
「あ、ありえないっ……!!」
彼が思わず一歩、二歩、三歩と後ずさった。
「竜宮院、お前はどこまでいってもつまらない人間だな」
俺の言葉を受け竜宮院が後退を止めた。
「地位も人間関係も、他人のものを喜んで奪い取って、それだけで飽き足らず技までマネかよ。本当にお前って奴は底が浅過ぎてつまんねー奴だ」
《
「うるっさいうるっさい!! お前みたいなモブに───」
どこまでいっても竜宮院は変わりはしない。
俺は彼に飛び掛かり、目一杯に握りしめた拳を、彼の端正なマスクへと全力で叩き込んだ。
「ぐぅバァァァァァッッッ!!!」
竜宮院は吹っ飛んだ先にあった、何重にも張られた結界に衝突し、
「アアアァァァァァァァァッッッ!!」
強烈に弾れると、ゴロゴロゴロゴロと地面を転がった。
「《限界突破》? 最高のスキルじゃないか。今から俺が、どれだけ殴っても壊れないんだからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます