第24話 私達の罪
◇◇◇
☆《破邪結界》☆
聖女ミカによる結界の一種。
結界内で対象に指定された人やモンスターは大幅に能力を削がれる。
また対象が悪しき存在であればあるほど、その効果はより大きいものとなる。
非常に強力な結界であるが故に使用難易度が極めて高く、消費魔力も莫大なものとなる。
それに加えて、玉座の間という広大な空間を覆うほどの《破邪結界》を張るなどといった芸当が可能なのは、聖女ミカをおいて他にはいないだろう。
☆《
体内に存在する魔力を、魔法に変換せず魔力のまま体外へと放出したもの。
アンジェリカは体外に放出した魔力を操作し、外部で魔法として発現させることで、自身の極度に小さい魔力放出孔に限定されることなく、擬似的な上級魔法を使用することを実現した。
またこの技術を応用することで、アンジェリカのオリジナル魔法である《
今現在も、玉座の間全域に極低濃度にアンジェリカの《
○○○
ミカがアンジェとエリスに顔を向けた。
彼女達の視線が交わった。それほほんの一瞬であったのだが、それでも、彼女達に通じ合う何かがあったのか───
「クラーテル教会のミカと申します。この場で三人の代表として発言させていただくことをお許しください」
ミカが深々と頭を下げた。
彼女の一挙手一投足にどよめきが起きた。
「それでは聖女ミカ殿、話を続けてくだされ」
ミカの提言に、マディソンが頷いた。
「私は長きに渡って彼───勇者リューグーインの側で御使えさせていただきました。ですので、その期間の勇者パーティのことは仔細全てを把握しております」
竜宮院が勝ちを確信し、不敵な笑みをたたえた。
ミカの顔に───迷いはない。
「これまで彼が成したとされるその功績の全ては……
「───えっ?」
驚愕から、竜宮院の顎が見たことないほどの開き方を見せた。まるで漫画だ。
竜宮院は未だ立ち直れず、まるで呼吸の仕方を忘れたかのように「はっ?」「はっ?」「はっ?」と三度繰り返した。
「新造最難関迷宮を実際に踏破した人物は勇者リューグーインではなく、先程マディソン宰相の仰られた、勇者と一緒に召喚された聖騎士ヤマダ様に相違ありません」
彼女の声に、決意のようなものを感じた。
それが何なのかは───
「こんなのはインチキだッッ!!」
ようやく立ち直った竜宮院が吠えた。
「絶対におかしいよッッ!!」
竜宮院が多くの者の前で喚き散らした。
「おかしいッ! おかしいッ! こんなのおかしいッッ! こんなのは悪質なやらせだッッッ!!! おいッッ! ミカッッッ!!! これは一体どういうことなんだッッッ!! 今なら許すッッ!! 今なら許すから早く取り消せッッッ!!」
彼から、ある種異様な雰囲気が発せられた。この場の者全員が迂闊に動けない。しかしミカはそちらを一瞥たりともしなかった。
「聖女ミカ、勇者リューグーインはこの様に言っておるが?」
マディソンが竜宮院を小馬鹿にするように、軽くミカに尋ねた。
「私の証言は『クラーテル様の御名』に誓って、全て真実です」
ミカの話を遮るように、竜宮院が声を張り上げた。
「アンジェリカッッ!! 助けてくれッッ!! 助けてくれよッッ! お前の勇者様が
無駄だ。
アンジェリカは沈黙を貫いている。
それを察した竜宮院が次はエリスに顔を向けた。
「エリスッッ!! お前の師匠である俺が、窮地に陥っているんだぞッッ!! お前の命を懸けてでも何とかしろッッ!! 何とかしろよォォォォッッ!!」
竜宮院が地団駄を踏んだ。
「クソッ! クソッ! クソクソォォ! お前達! 黙ってないで何とか言えよォォォォッッッ!!」
彼は真っ赤になった目で、ミカ達三人を睨みつけた。
「お前達ィィィィッッッ!! 絶対に許さないからなッ!! 勇者であるこの俺に歯向かいやがってェェェェッッ!!」
口角泡を飛ばす竜宮院。しかし、教会関係者の誰かによって創られた結界が彼の口にぺたりと貼られようやく騒ぎが収まった。
竜宮院が静まったタイミングでミカが話を再開させた。
「私達三人も勇者リューグーインと同様に償い難いほどの罪を犯しました。彼が功績を偽ったように、私達三人の功績もまた、嘘偽りに塗れたものでした」
「嘘偽り、とな?」
「はい、その通りにございます。真実、私が七つの迷宮踏破の内、寄与したのは《鏡の迷宮》だけとなります。また、私以外の勇者パーティの一員であるアンジェリカは《光の迷宮》踏破、エリスは《刃の迷宮》踏破のみに貢献いたしました」
「聖女ミカがこのように言うておるが?」
マディソンが、アンジェとエリスに問うた。
「間違いありません」
「聖女ミカの言う通りです」
二人もまた、迷いなく答えた。
けど、こんなのは違う……。
この世界に召喚された俺は、それまでに一つたりとも攻略されていなかった迷宮を七つも踏破した。その過程で、数え切れぬほどに死ぬ目にも会ってきた。元の世界に帰るためという動機は確かにあった。けれど見ず知らずのアルカナ王国のために身を粉にしたのは事実だ。
だから俺は考えてしまう。
もしかするとこれは傲慢な考えかもしれない。けれどあえて言葉にするのなら、『俺が一人で探索して、俺が一人で攻略した迷宮だ。お前達にごちゃごちゃ言われる筋合いはない』、だ。
そうだ。だから俺は彼女達に、今さら国に報告する必要なんてないと伝えていた。
それなのに……彼女達は自らの意志で全てを白日の下に晒した。
「三人の代表者として聖女ミカに問う。
お
国と国民を騙したのみならず、人道にもとる行為をした───お
彼女達を待ち受ける未来は暗い。
追放か? 鞭打ちか? それとも───
あれだけ苦しんだ彼女達が、どうしてこれ以上苦しまねばならないのだ。
タイミングが来るまで黙ってろと厳命されている俺は、どうするべきか。
「わかっております。私達はどのような罰でも甘んじて受ける所存です。それが愚かな私達に出来る唯一の償いですから……」
ミカ達の表情はどこか晴れやかだった。
けれど、それは違う。
間違ってるんだ。
だって悪いのは全部───
「悪いのは、全部僕なんだ!!」
何か言いたいことがあるからと口に貼られた結界を剥がしてもらった竜宮院が、涙を浮かべて声を張り上げた。
──────
これにて決着ッッッ!??
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