第20話 勇者(クズ)の本懐


 竜宮院は止まらない。


「山田だよ! 山田が全てをやったんだ!」


 彼が高らかに謳い上げた。


「薬師の娘だって? 花屋の娘だって? 小料理屋の女将だって? 将来を期待されたシスターだって? 宿屋の未亡人だって? その娘だって?

 他にもごちゃごちゃ名前を呼んでいたけれども、残念ながら、僕は彼女達のことなんて全く知らない。けれど、きっと彼女達は山田にこう脅されたんじゃないかな?」


 竜宮院が一拍溜め、 


「『言うことを聞かなければこの国は救わないぞ』ってね!」


 声を張り上げた。

 そしてなおも竜宮院は続ける。


「君達の調査にもそう出たはずさ」


 だろ? と再び小首を傾げた。


「そりゃそうだよ。そういうもんなんだ。それはもう、そういう風になったんだから。どこを探そうと誰に聞こうが、答えは同じ。変わらない。山田がやったんだ。これはもう、世界のことわりなんだよ」


 彼のエンジンがさらに掛かってきたのが見て取れた。


「っていうかさ、これは何? 僕を吊るし上げるための茶番? それとも小学校の終わりの会?

 それなら納得だ。さっきなんて聖騎士が褒められてたけど、僕、笑いそうになったもん。そもそも、そもそもだよ。山田と同じ聖騎士の人間にロクな奴がいるわけないって。

 この世界じゃ『聖騎士ってのは臆病で傲慢な犯罪者』だってのはもはや定説なわけだ。なのにさ、くっさい褒め言葉に鯱張しゃちほこばって、喜んで涙まで流しちゃってさ。本当に馬鹿みたいなやりとりを見せられて、寒い寒い全く寒いったらなかったよ」


 周囲の温度が下がってることに竜宮院は気付かない。いや、気付いていてもなお、このスタンスなのか。


「…………まあ、そうじゃろうな。貴様は否定するだろう。貴様の言う通り、貴様がやったという明確な・・・証拠は出て来なかった」


 その言葉に竜宮院が「だろうね」と満足そうに頷いた。

 マディソンが手元の用紙を背後に投げ捨てると、お付きの人が新たな用紙を手渡した。


「ならこちらはどうだ? レモネで貴様の犯した愚行の数々───こちらは証拠が腐る程ある。何か申し開きはあるか?」



◇◇◇



「レモネ? レモネって? ど、どうしてぇ?  どうして……さっきはグリンアイズの時期のことだって───」


 マディソンの声は、決して大きくはない、けれど、そこには修羅場をくぐり抜てきた者だけが持つ壮厳さがあった。

 対して、竜宮院が己の顔を両手で覆った……かと思えばその数秒後、そのまま髪を撫で上げた。


「失礼したね。その紙にも、またびっしりとくだらないことが書かれてるのかな? いや、いい、読まなくてもいいよ。どうせ時間の無駄だから。

 君達が僕の何を問い詰めようとしてるのかは想像がついてる。低レベル低クオリティに低モラル……全くワンパターンで下衆ゲスな人達だ」


 竜宮院が心底呆れたように肩をすくめた。


「繰り返すけど、僕は君達の言ったようなことは何もやってない。これまで僕がやったことはネクスビー踏破だけだ。それも七つ。君達が踏破不可と諦めた迷宮を七つもだ。

 レモネを滞在しているときもそうだった。僕は君達アルカナ王国の民のために、寝る間を惜しんで《時の迷宮》探索に明け暮れていた。そんな恩人である僕のことを君達は疑うんだからね……何とも恥知らずなことだよ。

 けど……そうだな、僕の仲間に聞いてみればいい! ヒルベルトを呼べ!!」


 竜宮院に名を呼ばれた彼は、先程ゲストルームにて粗相をした竜宮院の処理をした人物であった。すぐさま呼び出されたヒルベルトは、マディソン達の前───竜宮院の隣に進み出た。


「そなたの名は何と申す?」


「お初にお目にかかります。私、ヒルベルト・セピアと申します」


「おお、もしかすると、そなたがかの有名なセピア商会の会長か? 飛ぶ鳥を落とす勢いであると聞き及んでおる。さっそくではあるが、勇者がそなたの名を呼んだが、彼を擁護することはあるか?」


「言ってやれぇぇぇッ! ヒルベルトォォォッ!」


 ボールを投げつけてモンスターを召喚する物語の主人公の如くヒルベルトに命じ、竜宮院がマディソン宰相にビシィッと指を突き付けた。


「僕がどれだけ民の幸せを願っていたか、そして《時の迷宮》攻略に向けてどれほど苦労を重ねてきたかをっ!!」


 ヒルベルトは竜宮院の声に、すっと目を細めた。彼は竜宮院を一瞥すると、マディソンに向き直り、問いに答えた。


「マディソン宰相殿、わたくしがこれから勇者様のことを話すにあたって、礼を失する発言があるかもしれませんが何卒お許しください」


 彼の言葉にはマディソンが「許す」と頷き「それでは、発言を続けよ」と促した。


わたくしが勇者様をサポートするようになりましたのは、勇者様がレモネにて滞在するようになってしばらくしてからのことです。それ以前のことはわかりかねますが、以降のことでしたら彼のことは全てを把握しております」


 マディソン宰相は頷くと、ヒルベルトの発言を促した。 


「そもそも、わたくしと出会って以降の勇者様は、一度たりとも迷宮に潜っておりません。それどころか剣を握ることすらしておりませんでした」


 竜宮院が口をあんぐりと開け、目をかっぴらいた。度肝を抜かれたらあんな顔になるのだろう。


「また勇者様は、自分の欲に非常に忠実で、四六時中わたくしの用意した女性とことに及んでおりました。それに、彼は極めて短気で、少しでも口答えしようものなら、癇癪を起こし暴力を振るう癖があります。性欲に忠実で、短気な勇者様が何をしていたとしても、不思議ではないでしょう」


 ヒルベルトが前髪を持ち上げると、額には大きな傷跡があった。彼は「この傷は、勇者様につけられたものです」と言った。






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ピッコマ様にて、期間限定で本作のコミカライズが15話まで無料で一気読みできるようになってます

無料期間もそろそろ終盤となりましたー

ミカ、アンジェリカ、パフィめちゃエチチチですので読んでみてくださいー






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