第14章 アフターパレード
第1話 素数を数える
○○○
セナへと告白し、互いに気持ちを確認し合ったその後、俺は気が抜けてしまい、休みなく数日間戦い続けた疲労が押し寄せたのか、意識を失っていた。
「知らない天井だ……」
目が覚めると、見知らぬベッドで寝かされていた。開口一番のセリフはお約束だ。
視界に入ったのは、ぱたぱたしゃなりと何かをしている紫の着物を着崩したセンセイの背中であった。
「セン、セイ……」
そう一言口にすることが難しかった。
俺の声に気付いたセンセイが、俺の顔を見てホッとした様子を見せた。
「目を覚ましたかムコ殿。良かった」
かつて俺が隠れ山にたどり着いて、セナに面倒を掛けたときに似た身体のダルさを感じたが、何とか上体を起こしてみせた。
「センセイ、セナは、?」
俺の質問に彼女が顔を
「ムコ殿、
その言葉と表情に、セナが無事であることを悟った。
「セナは、山に帰らせた。あやつは
どうして帰らせたのかという疑問が、一瞬頭をよぎったが口にすることはなかった。俺を助けに来たときのセナの酷く憔悴した様子を思い返した。山から出ること自体が彼女にとって強烈な毒になるのだろう。
「ムコ殿の思った通りじゃ。セナは無理しておった。あのままここにおらせても、セナにも、ここに住む人達にも良くなかった……まあ、そういうわけで、セナは一人でお留守番しとる」
センセイはセナのことに関しては口が重い。
その理由も漠然とながら想像がついていた。
話を転換すべく、センセイに尋ねる。
「ここは?」
俺が気を失ってからの状況を知る必要があった。
「ここは、ボルダフギルドの一室じゃ」
三つ首龍と対峙したあの平原を最後に俺の記憶はない。
あれから何があったのか質問すると、センセイが教えてくれた。
「あのときの
何となくそうだろうなとは思っていた。
「
少なくとも四肢を失い、胴体も真っ二つに掻っ捌かれていたのだ。それが解除されたとなると考えただけでゾッとした。
そんな危機的状況から助けてくれたセンセイに心の中で手を合わせた。
「それに血液や細胞の代わりに創られた光魔法が体内で
「え、と、それって───」
「うむ、かなり深刻な状況だの。症状が進めば、
けれど《
「すまなんだ」
「えっ?」
「ムコ殿ばかり危険な目に合わせてしもうて」
センセイが眉を下げた。
「我がいたのに、このような事態を招いてしもうた。我の力不足で……いや、違うか。我にはあの状況を打開する
「やめてください」
センセイの手を掴んだ。どこかひんやりとしたか細い手だった。
「俺が自分で決めて、自分で選んだ道です。センセイには感謝こそすれ、謝られる理由がありません。それでも謝るというのなら、それこそが俺への侮辱だ」
「ムコ殿……」
セナもセンセイも俺には全てを教えてはくれていない。けれどそれには何かの理由があるはずなのだ。今回センセイが力を温存したことにも間違いなく理由がある。
「センセイ、謝るよりも褒めてくださいよ。いつもみたいに『よくやった』って。俺はその方が嬉しいです」
がばり、とセンセイがベッドの俺を抱き締めた。位置的に俺の頭部がセンセイの豊かなアレに埋まる形になった。
「そう、じゃな」
センセイの込めた力がさらに強くなり、顔面に彼女の胸の張りとやわらかさをさらに強く感じた。
けど、だから何だというのだ?
そもそもセンセイは家族であり、俺達の保護者であり、義理の母の様なものだ。
誓ってもいい。俺には
「ムコ殿、よくやった。
「数? はて、89、何のことですか97センセイ。101」
「それじゃよそれ! ムコ殿何をとぼけて……」
そこでセンセイは合点がいったのか「ははーん」と呟いた。
俺の態度が変だった理由に勘づいたのか、即座にイタズラ猫の様な表情を浮かべた。
「何だ、ムコ殿。もしかして我に触れて照れておるのか?」
さらに彼女は顔を近づけて「ん? ん? 恥ずかしかったのかのう?」「そんな照れずともよい、
トゥーピュアピュアボーイ(成人済み)の俺は、国民的ロボットアニメの主人公のライバル専用機みたく真っ赤になっていることを自覚した。もはや俺は「照れてないっす」「照れてないっすよ」「恥ずかしくないっす」「恥ずかしくないっすよ」を連呼するだけの存在に成り果てたのであった。
だって仕方ないじゃないか!!
柔らかいし!! 温かいし!! 何かいい匂いするし!!
みんなならわかるだろ?! だからもう許してくれよ!
「まったくもって
「うう……シテ……コロ……シテ」
顔を両手で隠した俺の頭をセンセイが撫でた。
「戻ってきてくれてありがとう、ムコ殿。
我は、ムコ殿が帰ってきてくれて本当に嬉しかったよ」
彼女の手つきはどこまでも優しかった。
「さて、我からの
センセイは、どこか困ったような表情を浮かべた。
「少しだけ、相談があるんじゃが……」
「何ですか、藪から棒」
「セナがのぅ」
しょんぼりしたセンセイは新鮮で可愛かったが、それは言わぬが花だろう。
「セナがどうしたんです?」
「我に、怒っておる。それも非常に激しく」
セナが、センセイに怒ったのを見たことがなかった。
抱きまくらにされたり、髪の毛をいじられてドレッドにされたり、タカイタカイされて上空に投げられたときも、セナは嬉しそうにしていたのに……何故。
「一体、何したんですか?」
俺はセンセイに尋ねたのだった。
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新章の始まりです
お読みくださっている皆様
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作者めっちゃ喜びますので!
それではよろしくお願いします!
それから限定ノートにて宰相さんの文字化けを直したものを載せておりますので、そちらもよろしくお願いします。
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