第43話 俺とセナ vs《遍く生を厭う者》②
○○○
ダメージから立ち直った《
「まずはお前が相手か、聖騎士よ」
「『まずは』だって? お前に次なんてねーよ」
「貴様如きが私を愚弄するかッッ!! 下等生物が味方を得て気が大きくなったかッッ!!」
「びびって兵糧攻めしようとしてた相手に、『貴様如き』とか『下等生物』とか言ってて恥ずかしくないの?」
「貴様ァァァァァァァァァァ!!!」
俺の言葉に怒号を上げて飛び掛かってきた《
セナが俺には《神気》を扱う素地があると太鼓判を押してくれた。
力───セナの《神気》が俺の全身の血管に流れ、細胞の一つ一つにまで流れ込むのが感じられた。浮遊感や酩酊感、興奮や鎮静、テンアゲにテンサゲ、そのどれとも異なるが、そのどれとも似た、矛盾に整合を掛け合わせたような、かつてない感覚であった。
そいつは俺を導くように、俺の用意した《気》を《神気》へと変換させた。
もちろん、それで体内の全ての《気》が《神気》となったわけではなく、《神気》への変換は少しずつ繰り返し繰り返し行われた。
それは、まるでセナが『イチロー、こうすればいい』と手本を見せてくれているかのようだった。
《
余裕はない。相手は屍人の王だ。間違いなく極限の攻防だった。
どれほどの時間をそうやっていたか……けれど俺はようやく───
「むッッッ!? まさか貴様……!!」
俺の異変に気付いた《
「だからそういうとこだぞ」
彼が
「俺とお前の戦いは、これで三ラウンド目になるな」
戦いには二度の仕切り直しがあった。一度目は式符セナ、二度目はセナによって俺のためにインターバルが設けられた。
「三度目の正直とも言うし、これでおしまいにしよう」
体内に取り込んだ《気》の一部を、身体の維持に最低限必要な量の魔力へと変換し、残り全てを一気に《神気》へと変換した。
大剣を構えたまま微動だにしない《
「俺を倒して、その後に人類を抹殺するんだろ? 言うなればこれはお前にとって人類を滅ぼす前の前哨戦みたいなもんだ。それなのにお前からは余裕が微塵も感じられない」
「グゥゥッッッ!!」
「俺は思うんだ。お前は器じゃねぇよ。
だから御託は抜きにして───」
掌を上に向け、くいくいと指を曲げてみせた。
「───とっととかかってこい」
彼の顔面に一気に筋が盛り上がった。
「
極限の闇を操る屍人の王が咆哮を上げた。
「グゥオオオオオォォォォォォォォッッッ!!」
それは純粋なる怒りだ。その怒りは収まることを知らず、声にならぬ声は大気を震わせた。それに伴い、城壁のあらゆるところがボコンボコンと崩れ落ちた。そもそもこれまでのボスモンスターとは別格の力を持った《
けれど、城の急速な崩落と共に、その巨体はさらに、さらに強大で強靭で、頑丈で頑健なものとなり、それはもはや特撮で見るような、ちょっとした巨人程度の大きさとなった。
「オボオォ、うグルアァァァ」
限界を超えるには何らかの犠牲が必要だ。
今の《
彼は知性を極限まで削ぎ落とし、怒りによって屍人の本能を剥き出しにすることで限界を超えたのだ。
また、限界を超えたのは肉体だけではない。
彼の闇の腕の一本一本はもはや丸太以上の太さとなり、さらにその数は倍のものとなった。
先手は《
「ウグゥゥイイイィィィィィィィッッッ!!!」
バカみたいに太い腕は鈍重な見た目とは違い激烈なスピードアップを果たしていた───しかも腕の数も倍のものとなり、その一撃一撃が、ゴウンゴウンゴウンと聞いたことのない音を発して空気空間を切り裂いた。
「受けて立つッッ!!」
俺は、全身はもちろん、背から伸びた十一の光の腕にまで《神気》を巡らせた。そして《
「オオォォォォォアァッッッ!!」
叫んだのは俺だ。
俺の光の腕と彼の闇の腕との正面衝突と相成った。
バガンバガンバガンバガンバガンバガンバガンバガンバガンバガン───俺と《
ここから俺は、少しだって負けやしない。
「オルアアァァァァァァァァ!!」
襲い来るいくつもの闇の腕を、一本、二本、三本、四本と───その全てをぶち抜き───最後の腕まで完全に滅ぼすと、俺は《
理性の失せた《
「イチロー、もうじきこの空間は無くなる。この戦いにそれほど時間は残されてない」
ここに来て《
本能だけで戦っている《
「ギギギャルウウウウゥゥゥゥッッ!!」
彼が憤怒の叫びを上げた。
終局は近い。
「ガアああああああァァァァァッッッ!!」
《
「はあァッッッ!!」
俺は裂帛の気合を放ち、そいつを迎え撃ち───両断───鞘へと戻し───
「こいつで終わりだッッ!!」
《神気》をこれでもかと言うほどに込めた───
「《
正真正銘の一撃必殺。
「ヌグッッうおおおおおおおおおおおあおおぉぉぉぉおおおおおおおおおお」
《
屍人が死ねば消えるだけ。魂なぞありはしない。
だからこれは自らが消え行く恐怖からくる叫びかもしれなかった。
俺の拳を受けた箇所から、彼の身体が空気に溶ける様に霧散し、胸部より上がどうっと音を立て地に落ちた。
「どう……して……貴様、なぞに」
理性を取り戻したのか《
「どうしてかって? そんなの決まってる」
彼は俺の答えを聞くべく沈黙を守った。
「俺には
「女神……私には、遠い、存在だ」
《
「俺の、勝ちだ」
俺は立ってることもやっとだったが、右手を突き上げて、何とか勝ち名乗りを上げた。
「イチロー───」
背中にセナの感触を感じた。
やっと、やっと、全てが終わったんだと、ようやく実感が湧いてきたのだった。
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