第30話 聖騎士 vs《遍く生を厭う者》①

○○○




 目覚めた瞬間ガバリと身体を起こした。

 死んでないか、怪我してないか、毒や呪いは大丈夫か、他には何かされてないか───俺は素早く確認をし、状況の把握に努めた。

 辺りを見回すと、すぐに色々な意味での違和感を抱いた。

 そこは俺の知っている場所だった。


「アルカナ王城じゃねぇか」


 かつて俺が召喚され、一ヶ月間お世話になった城だ。けど、壁や床や装飾などの配色は記憶にあるものとは明らかに異なり、そのどれもが暗くくすんだ色合いとなっていた。

 恐らくは本物ではないのだろう。もしかするとそれは───


 俺は、見覚えのある馬鹿みたいに豪華なカーペットを敷き詰めた通路を通った。何かに導かれるように、階上にあるはずの王の間へと足を進めた。



 記憶通りにその先にあった重厚な扉を開けた。

 俺の息遣いと足音だけというほぼ無音の世界に、ギィという音がやけに響いた。部屋に足を踏み入れると───気分が悪くなるほどの邪気が充満していた。さらに視界の先には玉座があった。


 そこには肘を付き、偉そうにふんぞり返る《廻天屍人リバースデッド》が座していた。

 そいつは前回の貧相な衣服とは大きく異なり、何だかごちゃごちゃとした趣味悪い───禍々しいまでに瘴気を放つ鎧を身に纏っていた。


「ここまでよく来たな」


 王の間に、重厚で、それでいて邪悪な声が響いた。


「『来たな』じゃねーよ! お前が連れてきたんだろうが!」


 これは虚勢だ。怯んでる様子を見せるわけにはいかなかった。


「この城こそ、私に相応しい住処だとは思はないか?」


 話を聞けよ、とは言わなかった。会話が成り立つ気がしなかった。それなりに明瞭な言葉を話すが、どうにも意思の疎通が図れない。というよりも図るつもりがないのだろう。人類とは明らかに異なる別の知的存在だった。彼を前に、その態度に、怒りよりも、恐怖心に似た不気味さを覚えた。


「ごちゃごちゃうるせえな。ちゃちゃっとやって、ちゃちゃっと終わらせるぞ。一度はお前を倒してるからな。再生怪人が弱いってのはセオリーだぜ?」


 俺は口にしたが、それは己を奮い立たせるためであった。

 既に臨戦態勢であるが、目の前の屍人グールの放つ強烈な邪気に、俺は気圧されていた。眼前の化物が完全なる上位者として、俺を睥睨した。


「ヤマダイチロー、私は貴様に敗けていない。あのとき貴様に敗れた《廻天屍人リバースデッド》はもういない」


 なら、その姿は───


「私は《封印迷宮》、《死を阿る死デッドリリースデッド》、《廻天屍人リバースデッド》の三つが混じり合い、全なる一へと昇華された上位存在」


廻天屍人リバースデッド》───いや、違う。

 彼───屍人の王が、玉座から立ち上がった。


 その姿に自然と俺の喉が鳴った。

 かつて彼が《廻天屍人リバースデッド》であったころとは比較にならないほどに大きく、筋骨隆々なその身体は、もはや異次元のレベルであった。

 それに加えて、彼は一目見ただけで《神話級》とわかる装備に身を固めていた。その軽鎧は光を吸い込む暗黒を塗り込められており、凶悪な大剣に至っては、彼の身長をゆうに超える長さで、邪気そのものを押し固めて創られたと言われても納得するほどの禍々しさであった。


 

「喜べ、ヤマダイチロー! 本来なら貴様達人間ごときがお目に掛かることの出来ない上位存在たる私が、君を直接指名したのだ!」



 喜べるわけがない。

 冷や汗がとまらねぇ。



「私の名は《遍く生を厭う者アイニカ》……貴様を滅ぼし、この世界に存在する全ての生命を葬りさる者だ」



 彼が剣を抜いた。ギギギギギと鞘と刃とが擦れる音が鳴った。切っ先を見た。ノコギリ状の凶悪な刃であった。


「アグァッッッ」


 何も、見えなかった。

 殺意の刃が俺の横っ腹を切り裂いた。


 









○○○




☆《遍く生を厭う者アイニカ》☆


 およそ全ての力を失い、残ったフォグが討伐され消滅するのを待つばかりであった《封印迷宮》が、《蘇生の宝珠》により現出するはずであった《死を阿る死デッドリリースデッド》を喰ったことで誕生した《死の王》。


 その姿は、聖騎士山田の恐怖心に由来する《廻天屍人リバースデッド》を元に構成され、意識は《廻天屍人リバースデッド》本来のものと、《死を阿る死デッドリリースデッド》のものと、《封印迷宮》のものとが混じり合い、全く新しいパーソナリティを形成している。


 またかつて自らを滅ぼした聖騎士山田一郎の完全なる消滅と、この世界に存在するありとあらゆる生命を根絶やしにするという絶対意思の具現たる存在でもある。





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 All I Need Is Kill All of you.

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